学術的文章とは
ある論点(問題)についての主張を先行研究や具体的な事例・データを用いて理論的・事実的に根拠づけていく文章
学術的文章の布置
- 一般←→個別
- 抽象←→具体
論文(学術的文章)は一般的な「主張」を具体的な事例でもって説明していく文章である。
小説・随筆は個別具体的記述によって一般・抽象的な概念を表現する文章である。
学術的文章における「主張」
学術的文章における「主張」とは意見のことではない。論点に関して新たな知見を提示することが「主張」である。
※論文における「主張」は当為 Sollen(かくあるべし)の系ではなく、存在 Sein(現にあること)の系でなされる。
- 論点(問い)と主張(答え)のセットからなる文を規定文(トピックセンテンス)と呼ぶ。
- 規定文(論点と主張)を構成するキータームが概念(Concept)である。
確認課題
- 導入
-
テキスト「01 学術的文章とはどのような文章か」「導入」(p.10)より学術的文章としてふさわしくない点を挙げよ。
- 私が作文教育を受けた時期は、小学校や中学校の読書感想文や絵日記などで教わった。
- まあ、皆さんもそうだと思うが、日本人は普通、この作文教育を受けているんじゃないかと思う。
- しかし、実際に何を教わったのかを考えると、実は何も思い出すことができない。
- 記憶がすごく曖昧なのだ。
- かろうじて思い出せるのが起承転結をしっかりしろと教えられたことぐらいだろうか。
- 作文教育は行動情報化社会で大切なものであり、ゆえに妥当性も有効性もないといってもよいのではないだろうか。
- 大学ではレポートを書くよりもサークル活動をするほうが楽しかったし、それがまた充実した学生生活だとも勘違いしていたことを今になって公開している。
- しかし大学側も学生に文章の書き方を教育することや、環境には気を配っていなかったと思う。
- いつも楽をして単位をとることばかり考えていたので今急に逆の行動を取ることになってしまって戸惑ってしまう学生も少なくないだろう。
- この講義では修士論文として認められるようなきちんとした学術論文の書き方を学びたいと思っている。
- 大学の4年間を含めてそのような機会はいままでなかったのでよろしくおねがいします。
- 以上
-
- 私が作文教育を受けた時期は、小学校や中学校の読書感想文や絵日記などで教わった。
- 時期は…教わった:ねじれ文
- 読書感想文や絵日記など:中途半端な列挙を行い、指示範囲を「など」で曖昧にしている
- まあ、皆さんもそうだと思うが、日本人は普通、この作文教育を受けているんじゃないかと思う。
- じゃないかと思う:学術的文章で「思う」は不可(書き手の主観主観)
- 日本人は普通…受けている:「普通」を盾に論証をサボタージュしている
- しかし、実際に何を教わったのかを考えると、実は何も思い出すことができない。
- 記憶がすごく曖昧なのだ。
- すごく:話し言葉
- かろうじて思い出せるのが起承転結をしっかりしろと教えられたことぐらいだろうか。
- ぐらい:曖昧
- 作文教育は行動情報化社会で大切なものであり、ゆえに妥当性も有効性もないといってもよいのではないだろうか。
- 行動情報化社会→高度情報化社会
- ゆえに:論理的な繋がりを表す言葉なのに、論理的な繋がりがない
- 大学ではレポートを書くよりもサークル活動をするほうが楽しかったし、それがまた充実した学生生活だとも勘違いしていたことを今になって公開している。
- 楽しかったし:話し言葉
- 公開→後悔
- しかし大学側も学生に文章の書き方を教育することや、環境には気を配っていなかったと思う。
- 教育することや、環境:抽象度が異なっている(「環境」の方が抽象的)
- いつも楽をして単位をとることばかり考えていたので今急に逆の行動を取ることになってしまって戸惑ってしまう学生も少なくないだろう。
- 学生も少なくないだろう:少ないと判断した根拠がない(ので「だろう」と逃げを打っている)
- この講義では修士論文として認められるようなきちんとした学術論文の書き方を学びたいと思っている。
- 学びたいと思っている:御勝手に
- 大学の4年間を含めてそのような機会はいままでなかったのでよろしくおねがいします。
- おねがいします:急に丁寧語
- 以上:不要
- 私が作文教育を受けた時期は、小学校や中学校の読書感想文や絵日記などで教わった。
- テキスト内容確認
-
テキスト「01 学術的文章とはどのような文章か」(p.11,12)を読み、そのなかで筆者が述べていることとして正しい項目をすべて指摘せよ。
- 「学術的な文章」は内容によってその価値が決まるのであり、形式には囚われない。
- 「学術的な文章」を書くには体力が必要であり、そのためのトレーニングをする必要がある。
- 「学術的な文章」を書く技術は習得可能なものである。
- 「学術的な文章」を書くスキルを備えたものは小説も書けるようになる。
- 「学術的な文章」は内容的に複雑なものになりがちであるが故に、分かりやすさを心がけて書くべきである。
- 「学術的な文章」は答えが分からない事柄を論じるものなので、混沌とした状態から書き始めたほうが味が出る。
- 「学術的な文章」はエビデンスを明示して主張することが求められる。
- 学術的文章とはどのような文章か
- 学術的文章とはどのような文章か、本ページの内容をもとに簡潔に説明せよ(50字以上80字以内)。
ある論点(問題)についての主張を先行研究や具体的な事例・データを用いて理論的・事実的に根拠づけていく文章
論文の評価基準例
論文・レポートの評価基準例とそれにもとづく採点表例を提示する。テキストを元に本実習用に秦野が作成したものであり、普遍的に使われているものではないので念のため。
大項目 | 項目 | S | A | B | C | D |
---|---|---|---|---|---|---|
課題適格性 | 文章量・文書書式は指示通りであるか | 指定文字数との差5%以内 | 指定文字数との差10%以内 正当な段落・見出し書式 | 指定文字数との差20%以内 | それ以上差がある | |
要求された課題に沿った内容であるか | 要求に応えられており、さらに独自の価値を提示している | 要求にすべて応えられている | 要求に即した内容である | 要求に関する内容であるが、要求をカバーできていない | 要求に則していない | |
文章適格性 | 語句・キーワードは的確に用いられているか | 専門用語が学術的に適切に用いられており、概念定義も正当に出来ている | 指示対象に対して適切な語句・用語が選択されている | 指示対象が不明確な語句が一部用いられている 用語の意味・使い方に一部誤りがある | 指示対象が不明確で何が書かれているかが読み取れない文が数多くある 用語の使い方に誤りが多数ある |
|
文が日本語として成立しているか 一文一義を意識できているか 接続詞は適切に使われているか | 一文一文が論理的に明確にして簡潔に書かれている | 主語述語のねじれがなく、一文一文が日本語として自然である 文が論理的に繋がっている | 主語と述語のねじれがあるなど、日本語として不自然な文が一部ある | 主語と述語のねじれがあるなど、日本語として不自然な文が数多くある | ||
パラグラフライティングが出来ているか (段落が適切に使われているか) | トピックセンテンスを抽出して読んだ時論理の流れが作られている | 主要な段落でトピックセンテンスがどの文であるか指摘できる | 段落分けに意義・意図が認められる 一段落が一つのまとまりを持っている | 段落わけがなされていない 段落が論理的に切られていない |
||
引用は適切に出来ているか 文献一覧は正しく作られているか | 日本では未紹介の論文・専門書を紹介し、そこから引用している | 外国語で書かれた論文・専門書を原書から正確に訳出して引用している | 引用が主張の根拠となっている | 引用がない 形式は守られているが引用する意味がない | 引用の形式が守られていない | |
図表は適切に用いられているか (図表がある時のみ) | 独自に集めたデータを用いて図表を作成している | 図表の作りや使い方に工夫があり、主張の説得力を増すのに貢献している | 図表が主張の根拠となっている | 図表と本文の関係が不明確である | 文字数を稼ぐための無意味な図表が使われている | |
論文としての価値 | タイトル(論文名)は適切か | タイトルが学術的に興味を引くものである | タイトルの中にその論文の学術的意義が提示されている | 論述対象範囲が具体的にタイトルの中で指示されている | タイトルが一般的・抽象的で論述対象が絞り込まれていない | 何を論じているのかがタイトルから読み取れない |
論文の問い・目的(論点)は明確か | 論点に独自性があり、学術的に意義がある | 論点が的確に整理して提示されている | 問いはなんであるか、何を目的とした論文であるかが明確に読み取れる | 問いや目的がなんであるかが説明されている | 問いや目的がなんであるかが触れられていないか、全く読み取れない | |
問いの背景を説明し、問いの意義を提示しているか(先行研究の紹介等) | 従来紹介されていない先行研究を意義を持って紹介している | 先行研究の紹介に一定の独自性を示している | 先行研究を踏まえるなどして、問いの意義価値を説明できている | 問いの背景について何らかの説明・紹介がなされている | 問いの背景について触れられていない | |
問いに対する答えは明確になされているか | 問いに対する答えに学術的に一定の新奇性がある | 問いに対して説得力のある答えが提示されている | 問いに対する答えが問答として成立している | 問いと答えのペアが読み取れる | 問いと答えのペアが読み取れない | |
答えを導く根拠は具体的に提示されているか | 上げられた根拠の内容に学術的に新奇性がある | 根拠が論証に対して十分説得的である。 | 論証一つ一つに対して具体的な根拠を示している | 論証に対して具体的な根拠を一部示している | 根拠が提示されていないか、具体性に欠き、根拠として不適正なものしかない | |
論文の構成になっているか (章立てが適切になされているか) | 章のタイトルを追えば論文の概要が理解できる | 各章が論文構成に則した内容となっている | 各章が章としてまとまりを持って書かれている | 3つ以上の章に分かれている | 章立てがなされていない 章が二つしかない |
|
大学院入試水準 | 卒業論文要求水準 | 一般レポート要求水準 | 単位が出る最低基準 | 不合格 |
課題
課題素材:「情報社会学概論」のレポートで依頼者が暫定的に作成したレポートの草稿が「大学教育とITについて」( )である。この草稿に対してあなたはどのようなアドバイスをするか。このレポート草稿の問題点をなるべく具体的に指摘せよ。
大項目 | 項目 | 評価 | 講評 |
---|---|---|---|
課題適格性 | 文章量は指示通りであるか | C | 39文字*76行=2964字。3500字程度という条件には少し足りない。 |
要求された課題に沿った内容であるか | C | 大学で要求されるレポートにおいては、「あなたの考えを自由に述べなさい」というのは「学術的に論点を適切に設定して、それに即して論じよ」という意味である。 | |
文章適格性 | 語句・キーワードは的確に用いられているか | D | 用語の使い方に多数の間違いがある。指示代名詞の使い方が曖昧で読み取れない箇所がある。 |
文が日本語として成立しているか 一文一義を意識できているか 接続詞は適切に使われているか | D | 主語と述語のねじれなど日本語として不自然な文が多数ある。 | |
パラグラフライティングが出来ているか (段落が適切に使われているか) | C | 段落分けに一応の意識はある。パラグラフ・ライティングは出来ていない。 | |
引用は適切に出来ているか | D | 引用の形式が完全に間違っており、「剽窃」と見なされてもやむを得ない。 | |
図表は適切に用いられているか (図表がある時のみ) | D | グラフが読み取り不能な物になっている。表・グラフが本文で参照されていない。 | |
論文としての価値 | タイトル(論文名)は適切か | C | 一般的すぎて全く具体性がない。何を論じようとしているのかが曖昧。 |
論文の問い・目的(論点)は明確か | D | 個人の感想文のレベルに止まっており、一般的な論点は全く提示していない。 | |
問いの背景を説明し、問いの意義を提示しているか(先行研究の紹介等) | D | 自分の周りの人という曖昧な対象の賛否という意見動向を主観的に述べているだけである。 | |
問いに対する答えは明確になされているか | D | 問いと答えのペアが読み取れない。 | |
答えを導く根拠は具体的に提示されているか | D | 論証というものが一切なされていない。 | |
"論文の構成になっているか (章立てが適切になされているか) | D | 「はじめに」と「社会学」の2章構成で論文の章立てとして不適切。 | |
総合評価 | C | どうやら授業は聞いていたようであり、授業担当者として単位を落とすに忍びない。ライティング実習の担当者が責任を取りやがれ! |
- 良い点
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「課題適格性」、「C」だが、「C」でも上等。課題は「ICTの普及が(学校・大学)教育にあたえる影響について」論じよ、というものであった。このレポートは曲がりなりにも「影響」を論じようとしている。完成前のレポートは「是非」を論じようとしていた。この方向で行ったならば論外であった。そしてこの「影響」がどのようなものであるのかについて、データの使い方・読み取り方は駄目なりにデータを元に「論証」しようとしている。
- 悪い点
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- 誤字が多く、文のねじれなど基本的な日本語の文法にも過ちが散見される
- WikiPediaから引用しているにもかかわらず、引用の書式を取らず、引用箇所がどこか分からない
- 図表を用いているのは良いが、図表が主張の根拠になっているとは言えない
- 論文としての主張がない
- 章構成が論文として不適格