データを読む:質的データの集計
- 本章で用いる実習用ファイル
実証研究における研究手法とデータの種類
データを読む=「解釈」
論点が適切であるということは、主張とそれを支えるエビデンスとしてのデータのセットが整合しているということである。主張にあったデータを収集し、収集されたデータから主張を引き出す、という往復運動が必要となる。
データを読み取り、そこから主張を引き出す時に必要なのが「解釈」である。データはそれ固有の文脈(コンテキスト)の上に置かれ、その文脈により、解釈は変化する。解釈は様々な幅(解釈の余地)を持つ。解釈の余地が狭い方がより客観的な主張を引き出しやすい。
解釈は大きく二つの段階に分けられる。
- 記述・推測的解釈…データ自身が語っている内容を適切に読み取り、記述する。
- 批評的解釈…データが置かれている文脈性を統制しつつ、データの背後にある構造を読み取る。
「解釈」はそれを客観的にするために様々な理論(論拠)によって支えられる。量的調査データにも質的調査データにもそれぞれそれに応じた理論がある。
データの種類 | データ収集 | 文脈依存 | 解釈の余地 | 理論 | |
---|---|---|---|---|---|
量的調査データ | 集めるのに厳密な手続き | データ収集時の文脈性からは独立 | 狭い | 統計 | 記述・推測的→批評的解釈 |
質的調査データ | 比較的自由 | データ収集時の文脈性にも依存 | 広い | テキストクリティーク | 批評的解釈 |
量的調査データも質的調査データも文脈性は重要だが、とりわけ質的調査データにおけるデータ収集時の文脈の読み取りには特段の慎重さが求められる。そのためにはテキストクリティークに基づく「批評的解釈」がポイントとなる。量的調査データは統計理論を元にした「記述・推測的解釈」を軸として、それをベースに「批評的解釈」を行う。
導入問題より(p.174)
Kさんは両親が高校生くらいだったころの親と子の関係について調べようと考えています。お母さんに尋ねたところ、ちょうど高校生のころ新聞部でアンケートをとったことがあるといって押入れから25年前の新聞部の会議録を探し出してくれました。
わたしたちの高校の生徒男女それぞれ100人にアンケートを配布し、下のような結果を得ました。
表1 思春期の高校生に対する親の干渉 男子 女子 帰宅時間について
両親は厳しいか厳しい 30% 厳しい 22% 厳しくない 62% 厳しくない 40% どちらともいえない 8% どちらともいえない 38% 交友関係について
両親は厳しいか厳しい 47% 厳しい 36% 厳しくない 20% 厳しくない 42% どちらともいえない 33% どちらともいえない 22% 進路に関する自分の意思は
両親に尊重されているか尊重されていない 24% 尊重されていない 85% 尊重されている 45% 尊重されている 12% どちらともいえない 31% どちらともいえない 3% ※データは架空
課題1:データ利用に関する問
- 問題文中から読み取れる方法でこのデータが収集されたとすると、このデータはどのように用いることが出来るか、出来ないか、その限界を考察せよ
- 量的調査でこのようなデータをあらたに収集する時、どのような手続きが求められるか
- 適切な手続きでこのようなデータが集められたとした時、その次に行うべき手続きは何か
解答例
- 量的調査データを収集する際の手続きを踏んでいないため、質的調査データとして用いる必要がある。
- 層別無作為抽出法
- クロス集計表の独立性の検定を行い、それに基づいて記述・推測的解釈を行う。続く。。。
データ集計と解釈
このアンケートの回答をまとめたものが「元データ」である。このデータを集計して、分析を行う。
- 性別にどう回答されたか、クロス集計を行う。
- 性(ジェンダー)が異なることで回答傾向が異なる(回答傾向はジェンダーに従属している)と言えるかどうか、クロス集計表の独立性の検定を行う。
- 結果を見やすく示すため、比率計算を行う(→導入問題)。
※比率の方向に注意(行方向・列方向) - 結果を見やすく示すため、帯グラフを描く。
比率計算に合わせる。
課題2:クロス集計とグラフ(形式)
元データよりクロス集計を行い、それを元に男子生徒と女子生徒の回答の傾向の違いを把握できるようなグラフを作成せよ。
G | H | I | J | K | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 帰宅時間 | 男 | 女 | 合計 | |||
2 | 1 | 厳しい | 30 | 22 | 52 | ||
3 | 2 | どちらともいえない | 8 | 38 | 46 | ||
4 | 3 | 厳しくない | 62 | 40 | 102 | ||
5 | 合計 | 100 | 100 | 200 | |||
6 |
G | H | I | J | K | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
10 | 交友関係 | 男 | 女 | 合計 | |||
11 | 1 | 厳しい | 47 | 36 | 83 | ||
12 | 2 | どちらともいえない | 33 | 22 | 55 | ||
13 | 3 | 厳しくない | 20 | 42 | 62 | ||
14 | 合計 | 100 | 100 | 200 | |||
15 |
G | H | I | J | K | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
19 | 進路 | 男 | 女 | 合計 | |||
20 | 1 | 尊重されていない | 24 | 85 | 109 | ||
21 | 2 | どちらともいえない | 31 | 3 | 34 | ||
22 | 3 | 尊重されている | 45 | 12 | 57 | ||
23 | 合計 | 100 | 100 | 200 | |||
24 |
課題3:クロス集計表独立性の検定(形式)
元データからクロス集計を行い、独立性の検定を行え。
G | H | I | J | K | |||
---|---|---|---|---|---|---|---|
1 | 帰宅時間 | 男 | 女 | 合計 | |||
2 | 1 | 厳しい | 30 | 22 | 52 | ||
3 | 2 | どちらともいえない | 8 | 38 | 46 | ||
4 | 3 | 厳しくない | 62 | 40 | 102 | ||
5 | 合計 | 100 | 100 | 200 | |||
6 | |||||||
7 | χ2値 | 自由度 | p値 | V | |||
8 | Peason | 25.54 | 2 | 0.00% | 0.36 | ||
9 | |||||||
10 | 交友関係 | 男 | 女 | 合計 | |||
11 | 1 | 厳しい | 47 | 36 | 83 | ||
12 | 2 | どちらともいえない | 33 | 22 | 55 | ||
13 | 3 | 厳しくない | 20 | 42 | 62 | ||
14 | 合計 | 100 | 100 | 200 | |||
15 | |||||||
16 | χ2値 | 自由度 | p値 | V | |||
17 | Peason | 11.46 | 2 | 0.32% | 0.24 | ||
18 | |||||||
19 | 進路 | 男 | 女 | 合計 | |||
20 | 1 | 尊重されていない | 24 | 85 | 109 | ||
21 | 2 | どちらともいえない | 31 | 3 | 34 | ||
22 | 3 | 尊重されている | 45 | 12 | 57 | ||
23 | 合計 | 100 | 100 | 200 | |||
24 | |||||||
25 | χ2値 | 自由度 | p値 | V | |||
26 | Peason | 76.30 | 2 | 0.00% | 0.62 | ||
G | H | |||
---|---|---|---|---|
7 | χ2値 | |||
8 | Peason | =SUM((I2:J4-K2:K4*I5:J5/K5)^2/(K2:K4*I5:J5/K5)) | ||
G | I | ||||
---|---|---|---|---|---|
7 | 自由度 | ||||
8 | Peason | =(COUNT(I2:J2)-1)*(COUNT(I2:I4)-1) | |||
G | J | ||||
---|---|---|---|---|---|
7 | p値 | ||||
8 | Peason | =1-CHISQ.DIST(H8,I8,TRUE) | |||
G | K | ||||
---|---|---|---|---|---|
7 | V | ||||
8 | Peason | =SQRT(H8/(K5*(MIN(COUNT(I2:J2),COUNT(I2:I4))-1))) | |||
課題4:新聞の見出し案の評価とデータの解釈・主張(形式)
- 意外!男子生徒の親の方が女子生徒の親よりも厳しい!←女子生徒は交友関係についてのみ男子生徒よりも親の干渉を意識するものが少ない(帰宅時間と進路に関しては女子生徒の方が親の干渉を意識する傾向がある)
- 両親と衝突する男子生徒たち。←?
- 娘の帰宅時間を気にしない親たち。←女子生徒は男子生徒より帰宅時間に関して親の干渉に対する評価を定められていない傾向がある
分析結果を踏まえて、データから得られた知見に見合った主張を考えてみよう。
主張テンプレ
本校在籍生徒に関して、親の干渉がどの程度強いかについて男女によって意識が異なるかどうかをクロス集計により検証する。
まずは帰宅時間に関して分析を行う。
…トピックセンテンス(主張)…。グラフより、女子生徒より男子生徒の方が帰宅時間に関して両親は「厳しくない」と認識する傾向が見られる(χ2(◆)=●, p<.01, V=▲)。女子生徒は「どちらとも言えない」と回答する傾向が強い。
次に交友関係に関して分析を行う。
…トピックセンテンス(主張)…。グラフより、…(χ2(◆)=●, p<.01, V=▲)…。
最後に進路に関して分析を行う。
…トピックセンテンス(主張)…。グラフより、…(χ2(◆)=●, p<.01, V=▲)…。
以上より、…
- ◆…自由度
- ●…Χ2値
- ▲…効果量
解答例
- 主張
-
25年前の当該高校在籍生徒に関して
- 男子生徒は帰宅時間に関しては親の干渉を余り感じていない。
- 男子生徒は交友関係においては親の干渉が強いと感じている
- 女子生徒は進路については親の干渉が強いと感じている
本校在籍生徒に関して、親の干渉がどの程度強いかについて男女によって意識が異なるかどうかをクロス集計により検証する。
まずは帰宅時間に関して分析を行う。
1.厳しい | 2.どちらとも言えない | 3.厳しくない | |
---|---|---|---|
男子 | 30% | 8% | 62% |
女子 | 22% | 38% | 40% |
男子生徒は帰宅時間に関しては親の干渉を余り感じていない。グラフより、女子生徒より男子生徒の方が帰宅時間に関して両親は「厳しくない」と認識する傾向が見られる(χ2(2)=25.54, p<.01, V=0.36)。女子生徒は「どちらとも言えない」と回答する傾向が強い。
次に交友関係に関して分析を行う。
1.厳しい | 2.どちらとも言えない | 3.厳しくない | |
---|---|---|---|
男子 | 47% | 33% | 20% |
女子 | 36% | 22% | 42% |
男子生徒は交友に関して親の干渉が強いと感じている。グラフより、男子生徒より女子生徒の方が交友関係に関して両親は「厳しくない」と認識する傾向が見られる(χ2(2)=11.46, p<.01, V=0.24)。
最後に進路に関して分析を行う。
1.尊重されていない | 2.どちらとも言えない | 3.尊重されている | |
---|---|---|---|
男子 | 24% | 31% | 45% |
女子 | 85% | 3% | 12% |
女子生徒は進路に関して親の干渉が強いと感じている。グラフより、男子生徒より女子生徒の方が進路に関して自分の意思は両親に尊重されていないと認識する傾向が見られる(χ2(2)=76.30, p<.01, V=0.62)。
以上より、帰宅時間と進路に関して男子生徒は女子生徒よりも親の干渉を意識する傾向は弱い。女子生徒は交友関係に関しては男子生徒よりも親の干渉を意識する傾向は弱いが、進路に関しては親の干渉を意識する傾向が強い。
テキストクリティーク
量的調査データの分析としてはここまでで終了である。しかしここで得られたデータは25年前の特定の高校のデータに過ぎない。そこから社会学的な知見(より一般的な高校生像)を得るにはどうすればよいだろうか?
ここからは質的調査データとしての手続きが必要となる。すなわちこの高校が日本の高校の中でどのような位置づけを持っているのか、この高校から得られたデータはどのような偏りを持っているものなのか、を分析し、解釈していくのである。
- この高校の地理的状況
- この高校の25年前の社会的位置付け-進学校?
- この高校の沿革(歴史)-元々は男子校だった?女子校だった?最初から共学だった?
- 25年前の社会状況
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