ライティング実習2A 12組

2024年度 前期 木03 13:30-15:00 瀬田3-B104

1-06 主張を根拠で支える

論証は主張根拠からなる
  • 一般・抽象的(上位パワー)な主張を具体的(下位パワー)な主張・事例・データで根拠づけする。
  • 論証(主張 根拠のセット)の最小単位が「パラグラフ」であり、パラグラフ内の主張が「トピックセンテンス」である。
論証の最小単位

主張

根拠
事例

根拠
データ

主張根拠論拠によって結びつけられている。論拠は一般常識レベルで確立している場合もあるが、その多くは当該分野の専門的理論・方法によって形作られている。

論文は論証(主張根拠)の階層構造によって作られる

主張は、常に直ちに十分に具体的な根拠に支えられるわけではなく、一定抽象的な根拠で支えられることが多い。このとき、その根拠は(それが主張となり)さらにそれを支えるより具体的な根拠を要する。こうして主張根拠の繋がりは多段的な階層構造を形成する。

逆に言えば、もっとも低レベルな根拠から導かれる主張根拠として、より上位(抽象度の高い)主張が導かれる、ということである。

論証の階層構造

論点

知見

←規定文

根拠/主張

根拠
データ

根拠
事例

根拠/主張

根拠
事例

根拠
データ

←エビデンス

実証主義論文においては根拠は極力具体的なデータにまで行き着くことが望まれる。「主張はデータによって支えられている」状態が手堅い論証である。

主張
根拠
  1. 具体的な主張
    根拠
    • 事例(エビデンス)
    • データ(エビデンス)
  2. 事例(エビデンス)
  3. データ(エビデンス)
  1. 下位パワーの文が上位パワーの文の根拠であるとは限らない。補足説明などの場合もある。
  2. 主張と根拠が同位パワーであったり、主張が下位パワー、根拠が上位パワーの場合もある。
    主張と根拠が同位
    そのベンチに座らない方が良い。ペンキを塗りおえたばかりだからだ。
    主張が下位、根拠が上位
    人を殺めてはいけない。命はかけがえのないものだからである。
    ※(社会学を含む)実証科学ではあまり用いない。

課題

  1. 以下の文の中で主張に相当する部分に青色下線根拠に相当する部分に赤色下線を引け。論証が多段的になっているときには主張かつ根拠となる文もあるので注意せよ。
  2. 根拠として書かれている文中にエビデンスとなり得る具体的なデータが記述されていれば、その内容を簡潔に示せ。また具体的なデータが文中に提示されていなければ、その根拠(主張)をさらに支える根拠として、どのようなデータがあれば、それがエビデンスたり得るか、例示せよ。

問1 英語教育

小学校から英語教育を進めることにはいくつかの懸案事項がある。まず、英語よりも日本語を学ぶことのほうが、多くの日本人にとって重要だということが挙げられる。また、小学校での英語教育がかえって英語に対する苦手意識を育ててしまう。最後に、現時点では小学生に英語教育をすることのできる教員が十分に育成されていないことが指摘できる。

ヒント表示

パワーパターン
小学校から英語教育を進めることにはいくつかの懸案事項がある。
  1. まず、英語よりも日本語を学ぶことのほうが、多くの日本人にとって重要だということが挙げられる。
  2. また、小学校での英語教育がかえって英語に対する苦手意識を育ててしまう。
  3. 最後に、現時点では小学生に英語教育をすることのできる教員が十分に育成されていないことが指摘できる。

解答例

必要なエビデンス
  1. 小学校で英語教育を行うことで日本語教育がどの程度削減されるか、標準カリキュラムからの試算結果
  2. 小学校から英語を学んだ生徒とそうでない生徒との意識の差を示したデータ
  3. 小学校で英語教育が出来る教員数のデータ

問2 死刑制度

日本において死刑存続を支持する世論は圧倒的であり、死刑廃止論議は低調である。例えば 2014 年 11 月に行われた「死刑制度に対する意識調査」では「死刑は廃止すべきである」が 9.7%であるのに対して、「死刑もやむを得ない」は 80.3%という結果が出ている。こうした世論の後押しを受けて日本では死刑制度は維持され、「死刑廃止を推進する議員連盟」の参加議員数も 30 名程度に止まる。

ヒント表示

パワーパターン
日本において死刑存続を支持する世論は圧倒的であり、死刑廃止論議は低調である。
  1. 例えば2014年11月に行われた「死刑制度に対する意識調査」では「死刑は廃止すべきである」が9.7%であるのに対して、「死刑もやむを得ない」は80.3%という結果が出ている。
  2. こうした世論の後押しを受けて日本では死刑制度は維持され、「死刑廃止を推進する議員連盟」の参加議員数も30名程度に止まる。

解答例

エビデンス
  1. 死刑制度に対する意識調査
    死刑は廃止すべきである9.7%
    死刑もやむを得ない80.3%
  2. 「死刑廃止を推進する議員連盟」の参加議員数:30名程度

問3 保育園

少子化の進行が深刻な状態になりつつある状況において、現在の保育園のあり方にも見直すべき点がある。第一に、両親ともに仕事を持っている人しか保育園に子供を入れられない、という現在のシステムは不十分である。祖父母が近辺に住んでいない場合、保育園の支援なしに3人、4人の子供を育てることは大きな負担になるからである。第二に、現在の多くの保育園は、両親の負担が重すぎる。一例だが、現在でも、都内の多くの保育園は、毎週昼寝用の布団を持ってくることを保護者に義務付けている。第三に、保育を必要とする日だけ保育園に通わせるシステムにするのが望ましい。園児が必ず週5日保育園に行くことが前提とされているため、受入体制に余裕がないのである。

解答例

パワーパターン
少子化の進行が深刻な状態になりつつある状況において、現在の保育園のあり方にも見直すべき点がある。
  1. 第一に、両親ともに仕事を持っている人しか保育園に子供を入れられない、という現在のシステムは不十分である。
    • 祖父母が近辺に住んでいない場合、保育園の支援なしに3人、4人の子供を育てることは大きな負担になるからである。
  2. 第二に、現在の多くの保育園は、両親の負担が重すぎる。
    • 一例だが、現在でも、都内の多くの保育園は、毎週昼寝用の布団を持ってくることを保護者に義務付けている。
  3. 第三に、保育を必要とする日だけ保育園に通わせるシステムにするのが望ましい。
    • 園児が必ず週5日保育園に行くことが前提とされているため、受入体制に余裕がないのである。
必要なエビデンス
  1. 子育てに関する調査データ(祖父母の有無、子供の数などによる負担の量をデータ化したもの)
  2. 都内保育園の規則を数値化したデータ(布団持参はどの程度求められているのか)
  3. 保育園の受け可能数と親の受入希望曜日データ(特定曜日だけ通わせたいという希望がどの程度あるのか、それによりどの程度保育所側に余裕が出るのか)

研究課題『自殺論』

下記文章はデュルケーム『自殺論』の一節である。

この文章から主張と根拠を読み取り、デュルケームが「経済的危機が自殺傾向に促進的な影響を及ぼす」ことをどのように実証しているか、その論証過程を説明せよ。

研究課題『自殺論』読み取り
これまでと同様にこの文章の論理パターンを解析し、文中で上げられているエビデンスを簡潔にまとめよ。
研究課題『自殺論』プレゼン資料(pptx形式)
それを元にして、デュルケームの論旨構成を解説したプレゼンテーションスライド(pptxファイル)を作成せよ。

経済的危機が自殺傾向に促進的な影響を及ぼすことはよく知られている。

ウィーンでは、1873年に金融危機が起こり、74年にはそれが頂点に達した。と同時に、直ちに自殺の数がはねあがった。1872年に141であったのが、73年には153となり、74年には216にまで達した。これは、1872年に比べて51%増、73年に比べて41%増にあたる。その破局がもっぱらこの増加の原因であることは、危機がもっとも先鋭な様相を呈していたとき、すなわち1874年の最初の四ヶ月に自殺の増加が特に著しかったという事実によって明白に証明されている。一月一日から四月三十日までの自殺をとってみると、1871年には48,72年には44,73年には43であったが、74年には73にのぼった。これは70%の増加である。同じころフランクフルト-アム-マインで勃発した同様の危機もまた、同じ結果をもたらした。1874年以前の数年においては、そこでは自殺は年間平均22ほどであったのが、この74年には32となり、45%も増えている。(Emile Durkheim, 1897, Le Suicide:étude de sociologie(宮島喬訳, 1978, 『自殺論』岩波書店 p.292-293))

読み取り

主張:経済的危機が自殺傾向に促進的な影響を及ぼすことはよく知られている。
根拠:
  1. 主張:ウィーンでは、1873年に金融危機が起こり、74年にはそれが頂点に達した。と同時に、直ちに自殺の数がはねあがった。
    根拠:
    • 1872年に141であったのが、73年には153となり、74年には216にまで達した。これは、1872年に比べて51%増、73年に比べて41%増にあたる。
    • 主張:その破局がもっぱらこの増加の原因であることは、危機がもっとも先鋭な様相を呈していたとき、すなわち1874年の最初の四ヶ月に自殺の増加が特に著しかったという事実によって明白に証明されている。
      根拠:
      • 一月一日から四月三十日までの自殺をとってみると、1871年には48,72年には44,73年には43であったが、74年には73にのぼった。これは70%の増加である。
  2. 主張:同じころフランクフルト-アム-マインで勃発した同様の危機もまた、同じ結果をもたらした。
    根拠:
    • 1874年以前の数年においては、そこでは自殺は年間平均22ほどであったのが、この74年には32となり、45%も増えている。
エビデンス
ウィーン自殺者数
通年1/1~4/30
71年-48
72年14144
73年15343
74年21673
フランクフルト自殺者数
通年
73年以前22ほど
74年32
プレゼン資料作成例
Title:主張根拠プレゼン
主張:自殺傾向は経済危機により促進
根拠:ウィーン・フランクフルトの事例
ウィーン金融危機と自殺者数
フランクフルト金融危機と自殺者数
主張:自殺傾向は経済危機により促進