ライティング実習2A 12組

2024年度 前期 木03 13:30-15:00 瀬田3-B104

主張を提示する

本章で用いる実習用ファイル

学術的な文章とは論証を伴う文章のことである。当該分野において価値を持ちうる「問い」とそれに対応する一定の新奇性を持った「答え」のセットである「主張」をさまざまな根拠で裏付けていくことによって論証していくのである。

この学術的文章における「問い」を論点と呼ぶ。論点は具体的な対象に対して一般的な視点から一般的な概念を用いて記述される。「答え」は論点から導き出された知見である。「問い」と「答え」はしばしば一体の主張として記述される。

「私」の主張と学術的文章の主張

個別一般・具体抽象のポートフォリオ;一般抽象→概念,個別具体→事例;一般具体:論文,個別抽象:ポエム,個別具体:日記,小説・随筆は個別具体的記述によって一般・抽象的な概念を表現する文章である

「私」の経験・意見などは「個別」である。この限定づけられた「私」を具体例・議論の基点(事例)として一般的な概念に関する議論を進めることは可能である。しかし「私」の経験・意見を一般的な主張として議論を展開してはならない。「私」の主張には往々にして「問い」がない(「私」の中に閉じているからである)。

※外部に開かれた「問い」を欠いた主張はイオロギーであり、このような「私」個人の「かくあるべし」という主張(意見)を記述した文章は論文ではなく、プロパガンダである。

あるいは本来一般的な主張であるものを、「私」に語らせることで「私個人の意見」として論証を省くような文章がある。もちろん「論証」がキモの論文においてはやってはならない。

課題

文章修正

以下の文章は個人の感想を中心として文が構成されており、一般的な主張(論点+知見)を十分に提示できていない。文章から一般的な主張を抽出し、それについて論じる文章に修正せよ。

  1. 一般的な主張をトピックセンテンスとしたパラグラフを書く。
  2. 上記パラグラフを中心に、残りの段落を構成する。
    • 主張の詳細説明
    • 主張の背景
    • 主張事例・根拠
文章の批評
  1. その文章がなにを主張しているのか、その主旨を簡潔に一文でまとめよ。
  2. その文章を採点者の立場で読み返し、一言批評を添えよ。「主張」をより説得的に論証するためにはどのような情報(事例・根拠)を付加すれば良いか、アドバイスせよ。
例題

○○大学図書館は罰金制度を採用するべきだと私は思う。現在の○○大学図書館は、本の返却が遅れるたびに罰則点がたまっていく方法をとっているようである。図書館のウェブ・ページを見てみると、罰則点がある程度たまると、貸し出しができなくなる、と書いてあることが分かった。当然のことながら、試験前に貸し出しができなくなると困るので学生が本を返すだろうという考え方であろう。

しかし、この方式には問題があるのではないだろうか。本を借り出す学生はまじめな学生が多いので、図書館に眠りに来るような学生よりもまじめな学生の方が貸し出し停止処分になる可能性が高いだろうと考えられる。これではまじめな学生に図書館を利用するなと言っているようなものではないだろうか。

それに対して罰金制度には利点があると思う。遅れた日数一冊一日10円ぐらいの罰金を課せば、学生もこまめに本を返すだろう。それに、図書館も収入が増える。よく読まれる本を2冊3冊買うお金も罰金制度なら捻出できるのではないだろうか。

ヒント表示

○○大学図書館は罰金制度を採用するべきだ主張私は思う(「私」個別の意見をトピックセンテンスにしない)。現在の○○大学図書館は、本の返却が遅れるたびに罰則点がたまっていく方法をとっているようである。図書館のウェブ・ページを見てみると、罰則点がある程度たまると、貸し出しができなくなる、と書いてあることが分かった当然のことながら、試験前に貸し出しができなくなると困るので学生が本を返すだろうという考え方であろう。

しかし、この方式には問題があるのではないだろうか主張。本を借り出す学生はまじめな学生が多いので、図書館に眠りに来るような学生よりもまじめな学生の方が貸し出し停止処分になる可能性が高いだろうと考えられる。これではまじめな学生に図書館を利用するなと言っているようなものではないだろうか。

それに対して罰金制度には利点がある代替案と思う。遅れた日数一冊一日10円ぐらいの罰金を課せば、学生もこまめに本を返すだろう。それに、図書館も収入が増える。よく読まれる本を2冊3冊買うお金も罰金制度なら捻出できるのではないだろうか。

※論点:○○大学図書館返却遅延に対する今のペナルティーの科し方は良い方法なのか

解答例

文章の修正

○○大学図書館の採用している返却延滞に対する罰則制度は学生の学習意欲を削いでしまっている主張。この制度は本の返却が遅れる度に罰則点がたまっていき、罰則点がある程度たまると、貸し出しができなくなる、というものである。しかしこの方式では本を頻繁に借り出す学生が試験前など肝心な時期に貸し出し停止処分になる可能性が高くなってしまう。図書館を頻繁に利用しようとする学習熱心な学生ほどこの罰則制度に萎縮させられてしまうのである。

貸し出し停止処分に変わる延滞防止策としては例えば罰金制度が考えられる代替案。罰金さえ払えば試験前でも本を借りることが出来るので、学生が学習する上での影響は少ない。そして罰金により得られた収入で、さらに書籍を購入すれば、利用者にとって利益となる。

文章の批評
主張
○○大学図書館延滞ペナルティーは学生の学習意欲を削いでしまっている。
コメント
学生の学習意欲が実際に削がれている根拠が示されていない。アンケート調査なり、インタビュー調査なりでその傾向を具体的に示す。
問1 ~式生活術

「~式生活術」は、もうやめよう

書店に行き女性向けの文庫本コーナーに行くと、『~式生活術』というようなタイトルの本がよくある。『イギリス式生活』『ドイツの主婦に学ぶ』『フランスマダムの暮らし』といったような書名の本が売れているようである。お手本にされる国はヨーロッパが多いのではないか。

しかし、私はこうした風潮には大きな疑問を感じている。日本とヨーロッパでは風土も違うし、食べ物や文化も違うであろう。それなのに、なぜ、ヨーロッパの生活をお手本にしよう、という本がこんなに書かれるのか、私にはわからない。日本にも日本の生活術があったのではないだろうか。

こうした「ヨーロッパ式生活の薦め」が流行るのは女性向けの雑誌のせいかもしれない。私は女性向けの雑誌を読むことはほとんどないのだが、欧米風のキッチンや部屋を美しく撮った写真であふれているというイメージがある。

ヒント表示

「~式生活術」は、もうやめよう流行の背景

書店に行き女性向けの文庫本コーナーに行くと、『~式生活術』というようなタイトルの本がよくある知見『イギリス式生活』『ドイツの主婦に学ぶ』『フランスマダムの暮らし』といったような書名の本が売れているようである知見の事例。お手本にされる国はヨーロッパが多いのではないか

しかし、私はこうした風潮には大きな疑問を感じている日本とヨーロッパでは風土も違うし、食べ物や文化も違うであろう知見。それなのに、なぜ、ヨーロッパの生活をお手本にしよう、という本がこんなに書かれるのか論点私にはわからない。日本にも日本の生活術があったのではないだろうか

こうした「ヨーロッパ式生活の薦め」が流行るのは女性向けの雑誌のせいかもしれない主張私は女性向けの雑誌を読むことはほとんどないのだが、欧米風のキッチンや部屋を美しく撮った写真であふれているというイメージがある

解答例

文章の修正
「~式生活術」流行の背景

「~式生活術」という類いのタイトルの本が数多く出版されている知見。『イギリス式生活』『ドイツの主婦に学ぶ』『フランスマダムの暮らし』などがそれに該当する事例。その際参照されるのは主にヨーロッパである。

このように日本で「ヨーロッパ式生活の薦め」が流行るのは雑誌メディアの影響である。主張。日本とヨーロッパでは風土・食べ物・文化など多くの点で異なっている。日本には日本独自の生活術が存在している。にも拘わらず女性向け雑誌では欧米風のキッチンや部屋を美しく撮った写真が数多く掲載されているのである根拠

文章の批評
主張
日本で「ヨーロッパ式生活の薦め」が流行るのは雑誌メディアの影響である。
コメント
日本で「ヨーロッパ式生活の薦め」が流行っていると言える根拠が現状では乏しい。さらにそうした状況(があるとして)をもたらしている原因としてあげられている雑誌については具体的な事例やデータをこの後列挙していく必要がある。
問2 早期英語教育

英語を小学校のときに学ぶことが良いのか、と問われると、「うーん、微妙だな」と思ってしまう。確かに早い時点から外国語を勉強した方が良いのかも知れない。私だって、小学校で英語を習っていたら、今頃英会話学校に行かなくても良かったのかも知れない。

しかし、私はやはり小学校から英語を勉強することが良いとは思えないのである。多くの人にとって小学校というのは、まだテストの点にきりきりしなくても良かった幸せな時代なのではないだろうか。そんな子供時代に単語テストや文法テストをさせるということは本当に良いことなのだろうか。もう一度考え直してみるべきなのではないか、という気持ちが拭えない。

解答例

英語を小学校のときに学ぶことが良いのか論点と問われると、「うーん、微妙だな」と思ってしまう。確かに早い時点から外国語を勉強した方が良いのかも知れない。私だって、小学校で英語を習っていたら、今頃英会話学校に行かなくても良かったのかも知れない。

しかし、私はやはり小学校から英語を勉強することが良いとは思えないのである知見。多くの人にとって小学校というのは、まだテストの点にきりきりしなくても良かった幸せな時代なのではないだろうか。そんな子供時代に単語テストや文法テストをさせるということは本当に良いことなのだろうか。もう一度考え直してみるべきなのではないか、という気持ちが拭えない知見(重複)

文章の修正

小学校のときから英語を学ばせることには弊害がある主張。早期に外国語教育を導入することには意義もあるだろう。大人になってから学び直す必要が減じる可能性はある。しかし英語教育を小学校に導入すると、単語テストや文法テストを行うなどして、小学生の負担を増すことに繋がる。

文章の批評
主張
小学校のときから英語を学ばせることには弊害がある。
コメント
小学校教育に英語教育を導入するメリット・デメリットをどう見積もるか。英語学習を組み入れるのと組み入れないのとで各教科の授業時間がどう変化するのか、具体的にその影響を示す必要がある。
問3 作文教育
作文教育について

私が作文教育を受けた時期は、小学校や中学校の読書感想文や絵日記などで教わった。まあ、皆さんもそうだと思うが、日本人は普通、この作文教育を受けているんじゃないかと思う。しかし、実際に何を教わったのかを考えると、実は何も思い出すことができない。記憶がすごく曖昧なのだ。

かろうじて思い出せるのが起承転結をしっかりしろと教えられたことぐらいだろうか。作文教育は高度情報化社会で大切なものであり、ゆえに妥当性も有効性もないといってもよいのではないだろうか。 大学ではレポートを書くよりもサークル活動をするほうが楽しかったし、それがまた充実した学生生活だとも勘違いしていたことを今になって後悔している。しかし大学側も学生に文章の書き方を教育することや、環境には気を配っていなかったと思う。いつも楽をして単位をとることばかり考えていたので今急に逆の行動を取ることになってしまって戸惑ってしまう学生も少なくないだろう。

この講義では修士論文として認められるようなきちんとした学術論文の書き方を学びたいと思っている。大学の4年間を含めてそのような機会はいままでなかったのでよろしくおねがいします。

解答例

作文教育について

私が作文教育を受けた時期は、小学校や中学校の読書感想文や絵日記などで教わった。まあ、皆さんもそうだと思うが、日本人は普通、この作文教育を受けているんじゃないかと思う。しかし、実際に何を教わったのかを考えると、実は何も思い出すことができない事例1記憶がすごく曖昧なのだ。

かろうじて思い出せるのが起承転結をしっかりしろと教えられたことぐらいだろうか。作文教育は高度情報化社会で大切なものであり、ゆえに妥当性も有効性もない主張といってもよいのではないだろうか。 大学ではレポートを書くよりもサークル活動をするほうが楽しかったし、それがまた充実した学生生活だとも勘違いしていたことを今になって後悔している。しかし大学側も学生に文章の書き方を教育することや、環境には気を配っていなかった事例2と思う。いつも楽をして単位をとることばかり考えていたので今急に逆の行動を取ることになってしまって戸惑ってしまう学生も少なくないだろう。

この講義では修士論文として認められるようなきちんとした学術論文の書き方を学びたいと思っている。大学の4年間を含めてそのような機会はいままでなかったのでよろしくおねがいします。

文章の修正
日本における作文教育の実情と課題

作文教育は高度情報化社会において今後もその重要性を増すが、日本の作文教育が成果を上げているとは言えない主張小学校・中学校において実践的な場面においてその指導内容が役立つことはほとんどない事例1。一般的には読書感想文や絵日記などを児童・生徒に自由に書かせるだけであり、具体的な指導内容は「起承転結」を意識せよという指示しかない。大学のカリキュラムにおいても文章の書き方に対する指導は十分に行われているとは言いがたい事例2。指導が不十分な結果、学生のモチベーションも上がらず、大学進学後もレポート作成よりもサークル活動を重視する学生が多いのが実情である。大学院に進学したり就職したりした後、論文や報告書を書くときになって初めてこれまで全く作文技術が向上していないことに気づかされる者も多いのである。

文章の批評
主張
日本の作文教育は成果を上げていない。
コメント
作文教育の成果をどう指標化し、評価するかが不明。

研究課題

「ICTの普及が(学校・大学)教育にあたえる影響」について、主張を明確にした1つ以上3つ以内の段落からなる文章を書け。すべての段落がパラグラフになるようにせよ。

主張に対する根拠は実在するデータである必要は無い(「こんなデータがあれば裏付けられるんとちゃう?」)。