本論の構成
問いの細分化
- 「大きな主張」(論文全体の主張)とデータを繋ぐ「小さな主張」を作る。
- 「小さな主張」から「大きな主張」を導く論旨構成を作る。
cf.研究方法の選択
A→B→C→D(「小さな主張」)…と議論を展開していく中で、論文全体の結論(「大きな主張」)を導き出す。この議論展開(ストーリー)を作り出すのが一番難しく、かつ面白い作業である。
議論展開のパターン
- 並列型(同等の主張を並べる)
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A1・A2・A3… ⇒ [A]
こんなに事例があるのだからAは正しいよね!
- 対比型(矛盾・対立する主張を対比させ、統合する)
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A←→B ⇒ [C]
この対立を整理すればCになるよね!
- 段階型(少しずつ主張を前進させていく)
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A→B→…→[N]
Aを踏まえるとBだよね、で、Bを踏まえると…、というわけでNとなるよね
こうしたパターンを複合的に用いて、論文のストーリーは作られる。
スマートフォンの普及がもたらす大学生の学力の影響(形式)
以下の論文概要から「議論展開のパターン」を意識して、本論の展開をアウトラインにまとめ、それを元にプレゼン用の発表資料を作成せよ。
- タイトル
- 「スマートフォンの普及がもたらす大学生の学力の影響」
- 規定文
- スマートフォン使用は大学生の学力達成に悪影響をあたえているわけではない
- エビデンス
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- 授業担当者の典型的回答パターン「授業中にスマホを弄っていて講義を聴かない!」
- 大学生に対するスマホ使用と単位取得に関するアンケート
- スマホ使用時間とGPAに相関なし(ピアソン相関係数:r=-0.04)
- 授業中スマホの使用頻度が多い層の方がGPAは高い(ポリシリアル相関係数:r=-0.32, p<.01)
- 講義中の過ごし方についての典型的回答パターン「分からない用語があればスマホで調べる」
アウトラインテンプレート
「…(簡潔に内容を記せ)…」の部分を埋めてアウトラインを完成させ、それを元に表紙を含めて5ページ(以上)からなるプレゼン資料を作成せよ。
プレゼン文書では簡潔に内容が伝わるよう、スライドタイトルや文言などは自由に修正せよ。
スマートフォンの普及がもたらす大学生の学力の影響
- A:「授業中のスマホいじり-教員アンケートより」
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- 主張Aの内容:…(簡潔に内容を記せ)…
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- 授業担当者アンケート
- 「授業中にスマホを弄っていて講義を聴かない」
- B:「スマホいじりは学力に悪影響を及ぼすか-学生に対するアンケート調査より」
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- 主張Bの内容:…(簡潔に内容を記せ)…
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- スマホ使用と単位取得に関するアンケート
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- スマホ使用時間とGPAに相関なし(ピアソン相関係数:r=-0.04)
- 授業中スマホの使用頻度が多い層の方がGPAは高い(ポリシリアル相関係数:r=-0.32, p<.01)
- C:「授業中のスマホ活用-アンケート調査の自由記述より」
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- 主張Cの内容:…(簡潔に内容を記せ)…
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- 授業中のスマホ使用内容についての自由記述
- 「授業中に分からない用語があればスマホで調べる。分からない用語をそのままにしておくより授業内容が理解できる」
- 結論:「教員と学生の意識のズレ」
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- 結論の内容:…(簡潔に内容を記せ)…
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「主張A」と「主張B」の対立は「主張C」により解決される。主張Aにおける授業担当者の「理解」は学生の行為を正しく見られてはいなかった。
B節本文例
2.2 スマホ使用は学力に悪影響を及ぼすか-学生アンケート調査より
スマートフォンの普及は教育界全般に好意的に受け止められたわけではなかった。それは大学教育においても変わらない。とりわけ前節で見たように、授業を担当する教員の間では授業中にスマートフォンを使用することへの抵抗は根強い。授業中のうたた寝や内職、あるいは私語と同様に、授業理解にスマートフォンは悪影響がある、と考えられている。
スマートフォンの普及は大学教育に対して否定的な影響をもたらしているのか。前述のアンケート調査結果より、スマートフォンの使用と教育達成との関連について取り上げる。教育達成指標としてGPAを用い、それとスマートフォン使用時間・SNS閲覧時間および授業中のスマートフォン使用頻度との関連を調べる。GPAとスマートフォン使用時間・SNS閲覧時間は比例尺度であるため、ピアソン相関係数を用いる。またスマートフォン使用頻度は順序尺度であるため、GPAとの相関はポリシリアル相関係数を用いる。
スマートフォン、その中でもSNSに時間を取られて、学生は勉強をしない、という主張は少なくとも本データからは支持されない。一日平均何分間スマートフォンを使用するかという質問への回答(単位は分)とGPAとの間に相関は見られなかった(r=-0.04)。またSNS閲覧時間とGPAとの間にも同じく相関は見られなかった(r=-0.05)。
授業中のスマートフォン使用頻度が高い層は低い層より好成績を得ていた(図1)。この結果は授業中のスマートフォン使用頻度とGPAとの間には正の相関が見られる(r=-0.32, p<.01)ことにより支持される。授業担当者の否定的な印象とは裏腹に、授業中のスマートフォン使用は成績を引き上げる効果が見られたのである。
うたた寝・内職・私語と同等とみられるスマートフォン閲覧がなぜ教育達成を引き上げる効果を持つのか。このことを知る手がかりはアンケート調査の中の自由記述欄から得られる。この点は次節で考察する。