ライティング実習1A 6組

2022年度 前期 木02 11:00-12:30 瀬田2-208

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論文

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  3. 論証-具体的事例・データ
  4. 結論-知見のまとめと今後の課題・展望
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死刑制度存廃論議に対する世論の限界

―μ国死刑制度廃止の経緯より―

C000000 安倍愛

概要

本稿では死刑制度の存廃論議において世論の動向を根拠づけることの限界を指摘し、専門家集団による議論の重要性を主張する。最初に死刑制度に関する日本の状況をまとめ、課題提起を行う(第1章)。次に世論において死刑存置が圧倒的に強かったが最終的に死刑が廃止された事例としてμ国の死刑廃止の経緯を紹介し、日本の論議にも共通しうる論点を提示する(第2章)。それにより世論の持つ不確かさを指摘し、死刑制度存廃論議にはそれとは独立した専門性を持った議論が重視されるべきであることを主張する(第3章)。

問題設定

死刑制度の存廃を巡る議論には被害者およびその関係者・死刑囚双方の人権に関わる問題があり、法学・社会学・心理学・生命倫理その他様々に専門的な論点が提示されている。本稿ではその中から死刑制度に関する世論の影響に着目し、世論の動向によって死刑制度のあり方を決定づけることの限界を指摘する。

日本において死刑存続を支持する世論は圧倒的であり、死刑廃止論議は低調である。例えば2014年11月に行われた死刑制度に対する意識調査では死刑は廃止すべきである9.7%であるのに対して、死刑もやむを得ないは80.3%という結果が出ている1)。こうした世論の後押しを受けて日本では死刑制度は維持され、「死刑廃止を推進する議員連盟」の参加議員数も30名程度に止まる。

それに対して世界の趨勢は死刑廃止に動いている。国連加盟国196カ国中、102カ国が死刑制度を完全に廃止しており、平時の死刑廃止国や法的には存置されていても死刑執行を長期的に停止するなどの実質的な死刑廃止国を含めると140カ国にも及ぶ2)

ここから見えてくるのは日本国内の状況、世論と世界の趨勢とが真っ向から対立している状況である。死刑存廃論議において世論を重視する限り、死刑制度廃止は実現性に乏しい。死刑廃止論に真っ先に立ちはだかるのはこの世論動向なのである。

こうした状況は日本に特殊なものなのだろうか。死刑廃止国では世論はそれを支持したのであろうか、あるいは世論の反対を押し切ってなされたのであろうか。後者だとすれば死刑制度廃止はいかになされたのか。それを踏まえた上で、死刑制度存置に傾く日本の世

論の意味を読み直すことを試みたい。

本稿では死刑制度が廃止された事例としてμ国を取り上げる。μ国は2000年初頭段階では現在の日本と同様死刑制度存置論が圧倒的に強かった。そのμ国がいかに死刑廃止にいたったのか、その政策決定と世論とがいかに交錯したのか、その経緯をたどることで、死刑存廃を巡る世論と政策決定との関わりに対する知見を得ることになる。それは日本の死刑存廃論を考える上でも意義深いものとなるはずである。

μ国における死刑制度廃止を巡る議論

本稿が着目するのはμ国が死刑廃止にいたった政策決定プロセスと世論の関係である。μ国の政治的動向とμ国国会での死刑論議、そしてそれにまつわる世論調査の結果とを時系列に参照する。その際μ国個別の事情についても適宜触れることになる。

死刑廃止にいたる経緯

μ国における死刑制度論議の開始は「外」の状況からもたらされたものであった。μ国は1945年の独立以来一貫して死刑制度は維持されていた。旧宗主国のフランスが1981年に死刑制度が廃止されたことを皮切りに、μ国でも死刑制度の存廃が議題に上がるようになった。親フランス派の議員を中心に与野党横断的に死刑廃止議員連盟が結成され、次第に議会内の支持を拡大させていった。それを受けて1990年1月に首相ナカザーが死刑制度存廃を量る国民投票の実施を提案し、議会に承認された。

しかし死刑廃止論は国内世論により頓挫する。1990年6月19日に実施された国民投票の結果は「廃止」が15%、「存置」が85%と圧倒的な差で、死刑制度は存置となった。これはナカザー首相のもくろみ通りであったとされる。死刑制度廃止の機運が有権者からもたらされたものではなく、親フランス派といういわば「エリート」層から発せられたものであり、犯罪被害者の報復感情に同情的な世論とはかけ離れたものであったのだ。ナカザー首相はそうした国民感情を知った上で、死刑廃止議員連盟の突き上げを無効化するべく国民投票を行った。

この国民投票の結果を持って、死刑廃止論議は一旦終息する。死刑廃止を唱えても全く有権者の支持が得られないことが明確になったのだ。

死刑廃止論が再び動き出すのは政権交代をきっかけとする。2008年フジモン首相の汚職事件発覚をきっかけとして首相は退陣し、同年4月の総選挙で保守党は大敗、民主党タカーシ政権が誕生する。死刑廃止議員連盟は超党派ではあったが、民主党所属議員が多く加盟しており、死刑廃止論が政治的課題とされるようになった。国立第一大学法学部大学院で博士号を取得し、フランス留学経験もあるタカーシも熱心な死刑廃止論者であった。

しかしこの動きもまた国内世論によって阻まれる。死刑廃止は総選挙においては全く論

点とはされておらず、世論の後押しは皆無であった。同年9月14日に独立行政機関社会調査研究所(Social Research Institute:SRI)3)が実施した世論調査の結果は「廃止」が11%、「存置」が89%と国民投票の結果よりも差が開いた。

2009年に死刑廃止論議に対して重要な出来事が二つ起こった。

一つ目は1963年に執行された死刑囚が冤罪である事が判明したことである。判決当初から目撃証言の曖昧さや自白強要などが取り沙汰されていた事件であったが、タカーシ政権下での徹底的な捜査の見直し方針もあり、科学鑑定の結果が覆されて無罪が確定したのだ。このことは国民にも大きな衝撃をあたえた。

二つ目は2006年に執行された死刑囚が絶命するまでの記録映像が流出した事件である。μ国は絞首刑を採用していたが、その絶命までの時間の長さや死刑囚の苦しみ方が赤裸々に映像に捉えられていた。なぜそのような映像が流出したのか、その経緯はいまだ不明であるが、タカーシ首相の関与を疑う質問も議会で提示された(タカーシ首相は否定)。

死刑廃止派はこの二つの出来事により死刑廃止論に世論が傾くことを期待した。タカーシ首相は再度死刑制度存廃に関する意識調査を行うようSRIに指示し、2009年10月20日に世論調査が実施された。その際2008年実施時とは質問項目が変更された。従来は「廃止」「存続」の二択だったものを「廃止」「存続」「中立」の三択とされた。「中立」を項目に入れたのは「存続」が過半数を占めることを阻止したいタカーシ首相の意図を汲んだものとされている。

世論の変化に期待して死刑制度を廃止しようとするこの試みはまたしても挫折する。世論調査の結果は「廃止」18%、「存続」62%、「中立」20%であった。「存続」の過半数割れを願っていた廃止派の期待は裏切られる結果となったのだ。タカーシ首相は世論の後押しへの期待を捨てることになる。

国民投票での死刑制度廃止を諦めたタカーシ首相は議会での死刑制度廃止を目指した。与野党横断的に死刑廃止に向けての多数派工作を開始する。もともと一般的な世論よりも議員の間では死刑廃止への理解は進んでいた。

2010年6月にタカーシ首相を中心とした超党派議員が死刑制度廃止を議会に上程し、同年11月に議員過半数を占める55%の賛成を得て(反対は38%、棄権7%)、死刑制度は廃止されることになった。保守党議員を中心に死刑制度存置派は国民投票がなされなかったことを批判したが、もともと刑法の改定には国民投票は不要であり、手続き的な瑕疵はなかった。かくしてμ国は死刑廃止国となったのである。

タカーシ首相は冤罪の可能性と刑自体の残虐性を強調し、人権に反する刑罰はその存続を許されないと声明を出した。国内世論よりも人権の普遍性・重要性を説いたのである。そしてこれまで留保していた国際人権規約第2選択議定書(死刑廃止条約)に批准することを宣言した(2011年1月批准)。

いささか強引とも言えるタカーシの手法に不満の声はくすぶっていたが、国民の政治に

対する関心はもっぱら景気対策に向い、大きな批判に晒されることはなかった。その後経済的な低迷から2012年の総選挙で民主党は大敗し、保守党のフークム政権が発足する。フークム政権はタカーシ政権でなされた死刑廃止を批判し、再び国民投票を実施した。2012年10月30日の国民投票の結果は「廃止」54%、「復活」46%となり、死刑制度復活はならなかった。2016年現在μ国は死刑廃止国である。

世論の変化

μ国において死刑存廃に関する有権者の意思は4度示されている。1990年の国民投票、2008年と2009年の社会調査研究所(SRI)実施の世論調査、2012年の国民投票である。この結果を表1および図1に示す。

表2-1 μ国死刑制度存廃に関する有権者の意思
廃止中立存置
1990投票15%85%
2008調査11%89%
2009調査18%20%62%
2012投票54%46%
La sensibilisation du public Résumé de l'enquête Vol.50より作成
図2-2 μ 国死刑制度存廃に関する有権者の意思

2009年世論調査と2012年国民投票において従来とは異なる結果が出ている。

2009年世論調査は「存置」が大きく減少した。この原因については調査項目が変更されたことが大きく影響していると考えられる。その一方「廃止」も若干増えてはいるが、以前少数にとどまり、冤罪の発覚や死刑という刑罰の残虐性が露わになった影響は直接的にはあまり大きくなかったと見られる。有権者の意識はさほど大きく変化しなかったのである。

2012年国民投票の結果は有権者の意識自体に大きな変化があったことを示している。これまで圧倒的少数にとどまっていた「廃止」が過半数を占めた。死刑制度廃止を強行した民主党政権から保守党政権に代わってもなお有権者の多数は死刑制度の復活を望まなかったのである。

なぜ2012年に死刑制度に関する民意は変化したのか。μ国政治学者のヤジーマ(2013)は以下のように分析している。

2012年フークム政権が実施した国民投票結果に保守党の死刑制度復活派は驚いていたが、この結果は実は予想されたものであった。死刑制度復活派はこれまでの死刑存置に投ぜられた票をすべて死刑そのものへの賛成だと考えていた。しかし事実はそうではなかった。

有権者がそれまでの結果で示していた支持の中には「現状維持」に対するものが含まれていた。かれらは今ある制度が今あるように維持されることを支持したのであって、死刑が廃止された後は、かれらは廃止されたその現状を支持したのだ。(Yajeama 2013:43)

ヤジーマは「有権者の意思」解釈に含まれる危うさを述べている。ある制度に対する賛否を問うとその制度の中身とは別に今ある制度の現状維持を支持する人々が一定割合出てくるというのだ。

μ国死刑制度においては世論が制度を変えはしなかった。法・制度の変更が世論を変えたのである。

死刑存廃論議における世論の限界

μ国で世論に反する形で死刑制度の廃止という法改正を行われたことは非民主主義的であったのだろうか。本節ではこの問題について考える。

この問題を考える際には間接民主制と直接民主制という概念を踏まえる必要がある。そしてμ国死刑制度廃止は間接民主制に照らして民主主義の原則に則ったものであると考える。確かにタカーシが死刑を廃止した際の手法は独断的であったとして依然として批判がなされている。ただタカーシは独裁的な権力でもって死刑を廃止したわけではなく、μ国の議会制度の中で極めて合法的に死刑を廃止したのである。日本や多くの民主主義国家と同様μ国もまた議会制民主主義という間接民主制を採用しているのだ。そして間接民主制においては多くの法律は直接有権者の意思を反映するのではなく、その代表者たる議員によって構成される議会の中で制定され、改定されるのが常態である。むしろ死刑制度に対してはことさらに直接民主制的な手法が当然視されていたことの方が異例であったと言える。

もちろん間接民主制においても問題により直接民主制のアプローチが採択されることはある。憲法改正などのように社会の構成員全体の意思が反映されることが必要とされるものが該当する。その一方で問題が複雑性・専門性を抱えている場合には、一定の専門性を持った代表者の議論を通じて意志決定をなす間接民主制的アプローチが妥当とされる。死刑制度の存廃論議はいずれのアプローチを取るのが妥当なのか。

タカーシは退陣後の手記で死刑制度においては間接民主性的アプローチこそが重要であると主張する(Takahshi 2014=2020:100)死刑制度に対してわが国の国民の意識は感情的なものであり続けた。刑罰に対しては専門的な知見は不要であって、感情論で構わないとする考え方が議員たちをも支配していた(Takahshi 2014=2020:129)。それは間違いであるとタカーシは主張する。人権という概念は徹頭徹尾専門的な知見でもって取り扱われなければならない。そして死刑制度は人権の根幹に関わる刑罰なのだ(Takahshi 2014=2020:130)。そして2009年に世論調査を実施して「廃止」論が少数に止まったことを反省する。死刑に処せら

れた者が冤罪であったと事実が私の中で途方もない焦りを持たせた。死刑は廃止されなければならないという信念は一層強固なものになった。しかしその事実を突きつけるだけで死刑廃止に国民は同意するだろうという私の見積もりは間違っていた。国民の何%がわが国が批准している国際人権規約の中身を知っているのだろうか?わが国の国民の人権意識は私が期待したものより遙かに低かった(Takahshi 2014=2020:131)。

このタカーシの言葉は大衆蔑視であるとして激しい批判に晒された。ただ人権を正当に扱うには相当の専門的な知見が必要であること、そして人権の尊重は国家が果たすべき義務であることはタカーシの政治家として譲れない信念であり、それは彼のエリート主義的な物言いとは別に評価されるべきであろう。

μ国死刑制度廃止経緯から得られる知見

ここまでμ国の死刑制度廃止を巡る状況を、世論と死刑廃止との関係を焦点化して概観してきた。μ国の事例から得られたこの論点を踏まえることにより、日本の死刑存廃論議にどのような知見を加えられるであろうか。

μ国の事例より明らかになったことは死刑制度に関する世論の不確かさである。死刑制度が存在していた頃には制度維持が圧倒的に支持されていた。しかし世論に逆らって死刑制度が廃止された後は死刑廃止が過半数を占めるようになった。死刑廃止前の死刑制度維持の世論は死刑制度そのものへの支持だけでなく、現行制度への支持という側面を持っていたのである。また世論調査自体の揺らぎもある。項目をどう設定するかでも調査の結果が変動することも示された。

日本においても死刑存置を支持する数的には圧倒的多数の世論はそれほど強固なものなのであろうか。冒頭にも述べたように死刑制度を維持しているのは世界的には少数である。国際人権規約においても第二選択議定書において死刑廃止を定めている(日本は批准していない)。死刑制度が存在していることを前提としたわれわれの感覚・感情は果たして死刑制度を維持する根拠とするだけの十分な確からしさを持っているのだろうか。

死刑制度は国家権力と人権が最大限にクリティカルに向き合う状況を作り出す。その是非は非常に高度にして多面的な判断が必要となるだろう。しかしわれわれ-日本社会の構成員-は死刑のことをどれほど知っているのだろうか。冤罪の可能性はないのか。執行にどの程度の時間がかかり、そのときの苦しみはどの程度のものなのか。そしてそれは日本国憲法36条が禁止する「残虐な刑罰」に本当に該当していないと言えるのか。

世論が不確かなものであるとするならば、世論を根拠にして制度を決定することにも限界を認めなければならない。世論を一定制度や政策に反映させることは民主主義としては当然のことである。しかし民主主義の原理はそうした多数決原理だけではない。少数者を含む全構成員を平等に扱うべきこと、とりわけ基本的人権を普遍的に尊重すべきこともまた、多数決原理以上に民主主義の根幹をなすものなのである。そしてそれを担保しうるの

は多彩な人権のあり方に対する相当の専門性なのである。

まとめ

本稿では日本における死刑制度の存廃に関して、現在の日本の世論-死刑制度維持が圧倒的多数-という結果を主要な根拠とした議論を行うことの限界を指摘した。そしてそうした「国民感情」よりも死刑に関わる様々に専門的な知見を投入した専門集団の議論を重視することの意義を示した。

本稿はこの議論を行うに際して、μ国の事例を参照することにより、理念的な議論に止まらず、より具体的な議論を行う際の手がかりを提示した。他国の事例とは言え、死刑制

度廃止前の状況は日本と一定の近似性が認められ、今後の日本の論議に一定の方向性をあたえうるものと考える。

その一方で本稿ではμ国の事例のみに止まり、その他多数ある死刑廃止国の状況には触れられなかった。また日本以外の死刑存置国の状況についても触れることが出来なかった。

こうした死刑制度を巡る国際比較については今後の課題としたい。

  1. ^平成26年度 基本的法制度に関する世論調査
  2. ^アムネスティ・インターナショナル 死刑統計2015
  3. ^μ国では独立行政機関のSocial Research Institute(SRI)が公的な位置づけを持って毎年世論調査を行っており、その結果を行政府は尊重することが慣例づけられている。なお行政府から独立していると言っても、質問項目の設定などには内閣の意向が反映されることは一般的である。

参考文献

  1. Social Research Institute, 2013, La sensibilisation du public Résumé de l'enquête Vol.50.
  2. Takahshi, Ahi,2014, J'avais raison, Université Mu 1 Panthéon Press.(浅倉愛訳, 2020, 我が人生に悔いなし-μ国元首相の信念-白水社.)
  3. Yajeama, Maimii,2013,Situation actuelle et les questions de la démocratie en mu, Journal de Mu Politique,13,35-46.

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