ライティング実習2B 3組

2018年度 後期 火03 13:30-15:00 瀬田2-119

実証研究と理論研究

人文社会学系研究の種類(p.116)

理論研究…抽象的な一般法則確立が目的
  • 理論・モデル構築
  • 理論・モデル検証
実証研究…具体的な社会現象の解明が目的
  • 量的調査
  • 質的調査
    • 参与観察
    • インタビュー
    • ドキュメント分析・文献研究
  • テキストp.117の分類法と比較検討せよ
MECE:Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive(相互に排他的かつ集合として網羅的)…漏れなく、ダブりなく

項目を論理的に整理するときに必要な考え方。

多段箇条書きを作成
  1. 各々の段階は抽象度を揃える
  2. 各段階に並べる項目に重なり・ダブりがあってはならない
  3. 各段階に並べる項目に抜け・漏れがあってはならない(すべてを書き切れないときは「etc」などの注釈を付ける)
  • テキストp.117の分類法はMECEになっているか?

理論研究(theoretical study)の基本構成

研究目的・対象

さまざまな事象を解釈・説明するための一般法則(社会構造や機序)を確立する(事象は素材)。

より一般的・普遍的な理論を構築することを志向する。

※テキスト(p.117)の「理論構築」も「理論検証」も「理論」それ自体を目的とする限りは「理論研究」である。それに対して「研究目的」で理論研究と対比せらるべきは上記「実証研究」である。

論証方法

自身の主張を他者の主張(既知の理論)から演繹的に論証する。

事象・事例

事象・事例

理論

理論

←他者の主張

理論

←主張(規定文)

事象・事例

←例示

経験的事実は理論の例示や有効性のカバレッジを示すために用いられる。

論文はこの「主張」の展開によって作られる。
  • 自身の「理論」を記した文が「規定文」である。
  • 「理論」的記述(主張)と「例示」のセットの最小単位が「パラグラフ」であり、パラグラフ内の「主張」が「トピックセンテンス」である。

※実証研究でも他者の議論(理論)を援用して議論を進める場面はあり、その際には理論研究と同様の論旨展開を行うことがある。

実証研究(empirical study)の基本構成(p.124)

研究目的・対象
  • 具体的な事象について何らかの知見を得、それを説明する(理論はそのための手段)。
  • 対象領域内での一般的な現象を説明することを志向する(「中範囲」)。
論証方法

一般・抽象的な主張を具体的な主張・事例・データ(経験的事実—価値や規範とは独立的)で根拠づけする。

知見

論点

←主張(規定文)

根拠/主張

根拠
データ

根拠
事例

根拠/主張

根拠
事例

根拠
データ

←エビデンス

  • このときの具体的な事例・データをエビデンスevidenceと呼ぶ。
  • 理論は主張と根拠を繋ぐ論拠の一つ。
データ収集
  • 量的調査(主として定量分析)
    • 調査データ(アンケート調査など)
    • 既存・公開データ
  • 質的調査(主として定性分析)
    • 調査データ(聞き取り調査・参与観察など)
    • 書かれたもの・その他表現されたもの(新聞・雑誌・小説・マンガ・映画・音楽など)—ドキュメント分析(テキストの言う「文献研究」)
主張
根拠
  1. 具体的な主張
    根拠
    • 事例(エビデンス)
    • データ(エビデンス)
  2. 事例(エビデンス)
  3. データ(エビデンス)
論文はこの「主張」と「根拠」の階層構造によって作られる。
  • 最上位の「主張」を記した文が「規定文」である。
  • 「主張」「根拠」のセットの最小単位が「パラグラフ」であり、パラグラフ内の「主張」が「トピックセンテンス」である。

テキスト(p.117)では実証研究(empirical study)と文献研究(literature-based study)を分けているが、本実習ではどちらも広義の実証研究としてまとめる。文字データも統計データやインタビューデータと同じく、「主張」の「根拠」として機能する。

テキストの実証研究の定義はempiricalという語を極めて狭く(日常語のように)捉えており、適切ではない。哲学上の「経験的」とはテキストの言う(個人の)「体験」のことではなく、客観的に観察可能な事象から議論を始める(実証主義positivism)、という意味である。

量的調査における研究手法とデータの種類

社会調査と統計的手法

課題

下記テーマで研究をしたい。そのテーマの研究に有効と思われる研究手法はどれか(研究手法の分類は本ページやテキストp.117を参考にせよ)。

有効と思われる各研究手法について、それを成立させるための具体的な論証方法(実証研究:どのようなデータが必要か、理論研究:どのような既知の理論が使えるか)をなるべくたくさん列挙せよ。有効とは思われない研究手法の欄は空欄にせよ。

  1. ○○製薬の新作シャンプーは非常に売れているが、広告に何か秘密があるかどうか
    実証研究
    • 販売データ(他製品との比較データ・広告内容と照らし合わせた時系列データ)-量的
    • 他社の広告との質的な比較(メッセージの中身・広告方法etc)-質的・ドキュメント分析
    • 商品購入者を対象とした購入理由に関するインタビュー-質的・インタビュー調査
  2. ○○自動車には環境に配慮したイメージがある。一体なぜなのかを△△自動車と比較することで調べたい
    実証研究
    • ○○自動車と△△自動車との性能比較-量的
    • △△自動車の広告との質的な比較-質的・ドキュメント分析
    • 一般消費者を対象とした各自動車会社に対するイメージを聞くインタビュー-質的・インタビュー調査
    • 一般消費者を対象とした各自動車会社に対するイメージを聞くアンケート-量的
  3. ○○製薬の新作シャンプーについて、若い女性たちはどう思っているのか
    実証研究
    • 一般消費者を対象とした本シャンプーのイメージに関するアンケート調査-量的
    • 一般消費者を対象とした本シャンプーのイメージに関するインタビュー-質的・インタビュー調査
    • 購入者を対象とした本シャンプー利用後の満足度調査-量的
    • 購入者を対象とした本シャンプー利用後の感想インタビュー-質的・インタビュー調査
  4. 日本人が持つ、中国人のイメージを知りたい
    実証研究
    • 日本人を対象とした「中国人」イメージについて性別・世代別アンケート調査
    • 既存データ: 外交に関する世論調査 2 調査結果の概要 1 - 内閣府-量的
    • 日本人を対象とした「中国人」イメージについての性別・世代別インタビュー-質的・インタビュー調査
    • 日本社会で中国(人)がどのように表象されているか、発表年別の言説(雑誌記事・小説・テレビ・映画etc)分析-質的・ドキュメント分析
    • 日中両国の国家関係や両国の世界における位置付けについての歴史研究レビュー-文献研究
  5. 日本の漫画に中国人がどんな役割で登場してくるのか知りたい
    実証研究
    • 日本で販売されている漫画を対象とした言説分析(時期別など)-質的・ドキュメント分析

課題:まとめ

実証研究の特徴を理論研究との対比を交えて以下のポイントに従って説明せよ。

  • 研究目的・対象
  • 論証方法
  • 使用データ

各ポイントについて、授業資料・テキストp.116-131などを参考にして、例示を交えてなるべく具体的に説明せよ。実証研究と理論研究の「定義」についてはテキストではなく、授業資料に従うこと。

  • ここでの実証研究とはテキストの言う実証研究と文献研究を合わせたものである。
  • ここでの理論研究とはテキストの言う理論構築研究と理論検証研究を合わせたものである。

テキストの分類方法(p.117)は端的にMECEになっていないため、そのままでは使えない(「MECE」という考え方についてはネット検索などで調べよ)。ただし個別の説明文は妥当なので、参考に出来るところは参考にすること。