ライティング実習2A 3組

2018年度 前期 火03 13:30-15:00 瀬田6-社会調査実習指導室

1-02 「一文一義」で書く

情報量が増えると、文もそれに応じて複雑で読み取りづらいものになりがちである(逆に言うと、内容の薄い文は「一文一義」の原則を簡単に守れる。もちろんそれが良いわけではない)。複数の情報で一つの陳述(主語・述語のセット)を行うとその文の構造が複雑化し、読み取りづらくなる。特に主語と述語のねじれに注意する必要がある。これを回避するためには一つの情報で一つの主語・述語のセットを作り、どの情報が中心(主旨)なのかを明確にして、文を構成するようにする。(cf.名詞句)

  1. 今言いたいこと(言いたいことの中心・主旨)を一つの主語・述語のセットにして文を作る。
  2. 1.の補足説明(具体的事例紹介、背景・前提説明など)を別の主語・述語のセットにして文を作る。
  3. 複数の文を再構成して、文にする(改めて一文にまとめるのか、文を分けるのかは適宜判断する)。

※一文一義を原理的に守ろうとすると、本来一つの主旨で書かれた内容が複数の文に分割されてしまい、主旨が不明確になってしまう。その結果として幼稚で舌っ足らずな文章になりがちである。

元の文

昨日、冷蔵庫に入れたままずっと忘れていたコロッケを食べて腹を壊した。

問題点
「昨日」が「冷蔵庫に入れた」にかかるのか、「腹を壊した」にかかるのか、不明確
「一文一義」の原則通りにした文
  1. コロッケを冷蔵庫に入れた。(前提1)
  2. そのことをずっと忘れていた。(前提2)
  3. 昨日、そのコロッケを食べた。(原因)
  4. それで腹を壊した。(結果・主旨)
ポイント

「一文一義」の原則通りに書いた文が良い文というわけではない。4文並べるだけでは、主旨がはっきりしない。元の文の言いたいことは「腹を壊した」ということである。

文を分割した結果、「昨日」がどこにかかるのかが明確になっているので、それを手がかりに元の文を書き直せば良い。

修正

冷蔵庫に入れたままずっと忘れていたコロッケを昨日食べて腹を壊した。

導入

以下の「あとがき」を文のねじれがなく、主旨を明確にした文に書き換えよ。

あとがき

この論文要旨集は、日ごろゆっくり話を聞かせてもらいたいと思いながらなかなか会うことができない先輩たちの研究を少しでもお伝えし、参考にしていただければと、編集委員一同、先輩たちの論文要旨を集め、心をこめて作成しました。

「一文一義」の原則通りにした文
  1. この論文要旨集は先輩たちの論文要旨を集めたものだ。[主旨]
  2. 先輩たちとはなかなか会うことが出来ない。[背景:先輩との関係1]
  3. 先輩たちとは日頃ゆっくり話を聞かせてもらいたいと思っている。[背景:先輩との関係2]
  4. 先輩たちの研究を少しでもお伝えしたい。[背景:作成の動機]
  5. この論文要旨集が参考になることを願っている(何の?補足が必要)。[背景:作成の意義]
  6. われわれはこの論文要旨集を心をこめて作成した。[補足]

あとがき

この論文要旨集は本研究室出身の先輩たちが各所で発表された論文の要旨を集めたものです。先輩たちとはなかなかお目にかかることもできませんが、ゆっくりお話を聞かせていただく機会を持ちたいと日頃から思っておりました。先輩たちの研究を少しでもお伝えしたいと願い、心を込めて作成いたしました。本要旨集が今後みなさまの論文執筆の参考になることを編集委員一同願っております。

※この論文要旨集は先輩たちの労作を集めたものなのでありがたく読め!

例題

以下の文を読みやすく修正せよ。

例題1 不当逮捕

テロリストをあぶり出すという大義名分のもとに人権を無視した不当逮捕は何があっても許してはならない。

  1. 不当逮捕はテロリスト対策という名目で正当化されることがある。[背景・譲歩]
  2. 不当逮捕は人権を無視しているから許されない。[主旨]

テロリストをあぶり出すという大義名分のもとに不当逮捕までもしばしば正当化される。しかし不当逮捕という人権に反した権力行使は何があっても許してはならない。

※いかなる大義名分を掲げようとも人権を無視した不当逮捕は許されない。

例題2 二宮尊徳

二宮尊徳は、経済的にも道徳的にも破綻し、危機に瀕していた桜町領の復興を言い渡され、これを10年がかりで成功させたのである。

  1. 二宮尊徳は桜町領の復興を言い渡された。[背景1]
  2. 桜町領は経済的・道徳的に破綻し、危機に瀕していた。[背景2]
  3. 二宮尊徳は桜町領の復興を成功させた。[主旨]
  4. 復興は10年がかりであった。[主旨の詳細]

二宮尊徳は桜町領の復興を言い渡された。桜町領は経済的にも道徳的にも破綻しており、危機に瀕していたのである。尊徳はこの復興を10年がかりで成功させた。

※二宮尊徳は大変な事業を長い月日をかけて成し遂げたのだよ、というサクセスストーリー。

例題3 東アジア金融危機

東アジアの金融危機の結果明らかになったのは、どこの国でも各国政府がドル・ペッグ制を守ろうとした挙句外貨準備を使い果たし、そこでIMFが為替のフロート制への移行、金利の引き下げ、不良債権の整理や金融機関の整理を含む構造調整策を融資と抱き合わせにして勧告するという図式である。

  1. 東アジアの金融危機の結果、各国政府が構造調整策を受け入れるにいたる図式が明らかになった。[主旨]
  2. 政府はドル・ペッグ制を守ろうとして外貨準備を使い果たす。[図式の詳細1]
  3. IMFは融資を行う際、構造調整策を抱き合わせにする。[図式の詳細2]
  4. IMFが勧告する構造調整策とは為替のフロート制への移行・金利の引き下げ・不良債権や金融機関の整理などである。[構造調整策の詳細]

東アジアに起こった金融危機の顛末から、各国政府が構造調整策を受け入れるにいたる図式が明らかになった。各国政府はドル・ペッグ制を守ろうとして外貨準備を使い果たし、IMF(国際通貨基金)に融資を要請する。IMFはその融資の抱き合わせに為替のフロート制への移行・金利の引き下げ・不良債権や金融機関の整理を含む構造調整策を勧告するのである。

※各国政府はなぜ「痛みを伴う」構造調整策をわざわざ実施するのか、それが東アジア金融危機の顛末から明らかになった、という主旨である。

練習問題

以下の文を読みやすく修正せよ。

練習問題1:ルイボスティー

ルイボスティーは、現地では「赤いやぶ」と言われ、学名を「アスパラサス・リネアリス」と言い、地下8~10メートル深く根をはり、地中のミネラルをたっぷり吸収した生命力あふれる希少な植物です。 (商品ちらし)

  1. ルイボスティーの原料はルイボスという希少な植物である。[主旨]
  2. ルイボスは現地では「赤いやぶ」と言われる。[ルイボスの詳細1]
  3. ルイボスの学名は「アスパラサス・リネアリス」である。[ルイボスの詳細2]
  4. 地下8~10メートル深く根を張り、地中のミネラルをたっぷり吸収する生命力あふれる植物である。[ルイボスの詳細3]

ルイボスティーはルイボスという希少な植物を原料としている。ルイボスの学名は「アスパラサス・リネアリス」であり、現地では「赤いやぶ」と呼ばれる。地下8~10メートル深く根を張り、地中のミネラルをたっぷり吸収する生命力あふれる植物である。

※ルイボスティーの原料には価値があるよ!

練習問題2:今月の部費

本来、月はじめに集める部費ですが、明日は、試験も終わることですし、ご連絡が遅くなってしまい申し訳ありませんが、今月の部費を集めさせていただきます。 (電子メール)

  1. 部費は本来月初めに集めるものである。[前提1]
  2. 明日は試験最終日である。[前提2]
  3. 明日、今月の部費を集める。[主旨]
  4. ご連絡が遅くなって申し訳ない。[挨拶]

明日、今月の部費を集めさせていただきます。本来部費は月はじめに集めることになっておりますが、明日が試験最終日で、その後学校に来る機会も減りますのでご了承ください。ご連絡が遅くなって申し訳ありません。

※本来の月初めではなく明日、部費を集めるが、文句を言うな。

練習問題3:業績評価

東京本社では営業にノルマと業績に応じた報酬を提供しているが、業績評価が営業の意欲を高めているのかどうかを考えてみたい。 (社内報)

  1. 東京本社では営業にノルマを課している。[背景1]
  2. そのノルマ達成度合いに応じた報酬を提供している。[背景2]
  3. ノルマを課し、報酬を提供するという業績評価(のあり方)は営業意欲を高めているのか。[主旨]

東京本社では営業にノルマを課し、ノルマ達成度合いに応じた報酬を提供している。ここではこうした業績評価のあり方が営業意欲を高めているのかどうかを考えてみたい。

※東京本社の営業施策においてノルマベースの業績評価が成功しているのかどうかがテーマ。

練習問題4:バッハとボイジャー

さらに、1977年に木星と土星の探査機としてボイジャーが米航空宇宙局から打ち上げられた時にも、未知の宇宙文明と遭遇する場合に備えて地球からのいろいろな情報とともに、一時間半にわたって多くの音楽がLP化されて搭載されたが、その中心に選ばれたのもバッハの《ブランデンブルク協奏曲第二番》第一楽章であった。 (新聞記事)

  1. ボイジャー打ち上げ時にも、バッハの音楽は大きな役割を果たした。[主旨]
  2. 1977年に木星と土星の探査機としてボイジャーが米航空宇宙局から打ち上げられた。[背景]
  3. ボイジャーには未知の宇宙文明と遭遇する場合に備えて地球からのいろいろな情報が搭載された。[背景の詳細]
  4. ボイジャーに搭載された情報の中には一時間半にわたる多くの音楽が含まれる。[背景の詳細の詳細]
  5. 音楽はLP化されて搭載された。[背景の詳細の詳細の補足説明]
  6. そのLPはバッハの《ブランデンブルク協奏曲第二番》第一楽章が中心となって編集された。[主旨の詳細]

さらに、1977年に木星と土星の探査機としてボイジャーが米航空宇宙局から打ち上げられた際にも、バッハの音楽が大きな役割を果たした。ボイジャーには未知の宇宙文明と遭遇する場合に備えて地球からのいろいろな情報が搭載された。その中に一時間半にわたる多くの音楽がLP化されて含まれていた。そしてそのLPの主要曲として選ばれたのがバッハの《ブランデンブルク協奏曲第二番》第一楽章なのである。

※バッハ(の音楽)はあちこちで中心的役割を果たしているよ!

練習問題5:国際交流教育

近年、「国際交流」の教育が重視され、各学校のそれぞれの教室で実践が広がりを見せ始めているとき、本書の研究内容が、学習指導の場に少しでも浸透して、一層普及に役立つことができればという思いが、刊行のきっかけであった。 (本「監修のことば」)

  1. 近年、「国際交流」の教育が重視されている。[背景]
  2. 近年、各学校のそれぞれの教室で「国際交流」教育の実践が広がりを見せ始めている。[背景の詳細]
  3. 本書の研究内容が学習指導の場に浸透して、「国際交流」教育の普及に役立てたい。[主旨の理由]
  4. 本書の刊行は上記状況に見合ったものである。[主旨]

近年、「国際交流」の教育が重視されており、それに沿って各学校のそれぞれの教室で「国際交流」教育の実践が広がりを見せ始めている。この状況を踏まえて本書を刊行することにした。本書の研究内容がこうした学習指導の場に浸透して、「国際交流」教育の一層の普及に役立つことを願うものである。

※本書の刊行はタイムリーだよ!

練習問題6:社内文書

わが社といたしましては、社の成果として出版する予定ですので、研究部出版委員会での審議とあわせてご協力いただいた社内外の委員に再度お目通しをいただき、加筆訂正等の箇所があれば、10月5日(金)までに庶務課広報係までお知らせいただければ幸いです。 (社内文書)

  1. 原稿は社の成果として出版予定である。[背景]
  2. 研究部出版委員会で原稿を審議せよ。[主旨1]
  3. 原稿は社内外の委員にも再度お目通しをいただけ。[主旨2]
  4. その結果、原稿の加筆訂正などの箇所があれば、10月5日(金)までに庶務課広報係までお知らせいただきたい。[主旨の補足]

本原稿は社の成果として出版する予定です。研究部出版委員会で審議を行った上で、ご協力いただいた社内外の委員にも再度原稿をご確認いただくようにしてください。その結果原稿の加筆訂正などの箇所があれば、10月5日(金)までに庶務課広報係までお知らせください。

※原稿は研究部出版委員会で審議の上、社内外の委員にもきちんと見て貰い、しかるべき手続きに従うように!

練習問題7:アリさんマーク

アリさんマークで知られる引っ越し業者の男性社員が、労働組合加入をきっかけに書類を裁断するだけの担当にさせられたのは不当だとして元の職場に戻すよう訴えていた裁判で会社側が謝罪し復職させることで和解が成立しました。(NHK@首都圏)

  1. アリさんマークで知られる引越業者とその男性社員との裁判は和解が成立した。[主旨]
  2. 和解の内容は会社側が謝罪し、社員を復職させるというものである。[和解の詳細]
  3. 男性社員は労働組合加入をきっかけに書類を裁断するだけの担当にさせられたのは不当だとして元の職場に戻すよう訴えていた。[裁判の詳細]

アリさんマークで知られる引越業者とその社員の間で争われていた裁判で、会社側が謝罪し、社員を元の職場に復帰させることで和解が成立しました。原告の男性社員は労働組合加入をきっかけに書類を裁断するだけの担当にさせられたのは不当だとして元の職場に戻すよう訴えていました。

※会社とその社員が不当労働行為で争った裁判で会社側が謝罪することで和解が成立した。

練習問題8:スマートフォン

本論文では、スマートフォンを使用した勉強と、紙媒体を使用した勉強では、紙媒体を用いて勉強した方が、内容をよく理解し、記憶することができるということと、スマートフォンの「お手軽さ」が紙媒体に比べて、使用者に記憶しにくく、また理解しにくいという弊害を与えていることを指摘した。(2018年度後期レポート)

  1. スマートフォンを使用した勉強と、紙媒体を使用した勉強では、紙媒体を用いて勉強した方が、内容をよく理解し、記憶することができる。[前提1]
  2. スマートフォンの「お手軽さ」が紙媒体に比べて、使用者に記憶しにくく、また理解しにくい。[前提2]
  3. 本論文はスマートフォンを勉強に用いることには弊害があることを指摘した。[主旨]

本論文はスマートフォンを勉強に用いることには弊害があることを指摘した。スマートフォンを使用した勉強はその「お手軽さ」により、紙媒体で勉強するのに比べて、学習者に内容が理解しづらく、さらに定着しにくいのである。

※[前提1]と[前提2]は表裏で同じことを繰り返しているだけである。どちらかに整理する。

課題

以下の文章を一文一義の原則に照らして修正せよ。

私がこれまで死刑を自明視してきたことが間違いであると分かったのは、大学の講義でμ国において死刑制度が廃止された経緯について学んだことをきっかけとして、これまで死刑の存在を自明視して、それについてあまり考えることもなかったが、講義の中で死刑が廃止された国があり、さらには世界的には死刑廃止国の方が多いという事実を知り、μ国で死刑が廃止されるにいたった思想に触れ、日本においても死刑廃止論の内容について検討するべき課題であると認識したのである。

死刑についてほとんど何も知らなかった私は、より深く死刑制度について調べることの重要性に気づき、μ国の事例を題材として、死刑制度に関する議論を進めていく。

μ国において死刑制度が廃止された経緯について大学の講義で学んだ。そしてそれをきっかけとして日本の死刑制度について考えてみることにした。授業を聞くまでは死刑について考えることはなかった。死刑の存在を自明視していたのだ。しかし死刑が廃止された国があり、世界的には死刑廃止国の方が多いという事実を知った。それにより今まで自分が自明視してきたことが間違いである事が分かった。 μ国において死刑が廃止されるにいたった思想的変遷を知ることができた。それにより日本でも死刑が廃止される可能性があるとすれば、死刑制度はその内容に関して検討するべき課題であると認識したのである。

死刑について知らないことばかりだということに気づかされて、より深く死刑制度について調べることが重要であると思った。大学の講義でμ国の話を聞いた内容に基づき議論を進めていく。