構造を発見する
- 本章で用いる実習用ファイル
隠れた要因を表に出す
例題
ある集団から無作為に選んだ326人に学力テストを行い、その点数を記録し、さらに受験者のさまざまな属性と合わせて結果を分析することにした。
Aさんはその中から受験者の身長と試験結果との関連を分析し、その集団においては「身長が高ければ、試験で高い点数を取れる」と結論付けた。
このAさんの分析を追試し、批評せよ。
A | B | C | D | |||
---|---|---|---|---|---|---|
1 | no | marks | height | age | ||
2 | 1 | 50 | 122.06 | 8.6 | ||
3 | 2 | 76 | 153.21 | 12.0 | ||
4 | 3 | 43 | 117.53 | 7.2 | ||
5 | 4 | 51 | 127.56 | 8.4 | ||
6 | 5 | 30 | 109.83 | 6.0 | ||
… | ||||||
被験者諸属性と試験結果(架空データ) |
H | I | |||
---|---|---|---|---|
… | ||||
3 | 相関係数r | 0.91 | ||
4 | 決定係数R2 | 0.82 | ||
5 | 標準誤差SE | 0.02 | ||
6 | t | 34.48 | ||
7 | p(≠) | 0.00 | ||
… |
散布図および相関係数より点数と身長との間に正の相関が見られる
- 点数が高ければ身長が伸びる?
- 身長が高ければ点数が上がる?
成績と身長の相関係数は0.91、強い相関があり、サンプルサイズが326あるので、無相関検定でもp=0.00、有意。つまり成績と身長には正の相関がある。Aさんはさらに踏み込んで身長を「原因」と述べているのも「成績→身長」という因果は想定しづらい以上、妥当である?
「点数」と「身長」以外に「年齢」があるので、それと「点数」「身長」との相関を見てみよう
- 「年齢」と「点数」に関する散布図を書き、相関係数を求めよ。
- 「年齢」と「身長」に関する散布図を書き、相関係数を求めよ。
- 年齢は点数に影響を及ぼしている?
- 相関係数
-
H I … 12 年齢*点数r 0.98 … - 近似直線
-
H I … 16 年齢・点数傾きb 6.66 17 年齢・点数切片a -5.28 …
- 年齢は身長に影響を及ぼしている?
- 相関係数
-
H I … 13 年齢*身長r 0.93 … - 近似直線
-
H I … 18 年齢・身長傾きb 6.06 19 年齢・身長切片a 76.50 …
そこで年齢→点数、年齢→身長という影響を排除して、点数と身長の相関を調べる。
点数・身長データから年齢による変化(y = a + b×年齢データ)を引いた値を求める。
E | F | |||
---|---|---|---|---|
1 | 点数(年齢統制) | 身長(年齢で統制) | ||
2 | =marks-($I$17+$I$16*age) | =height-($I$19+$I$18*age) | ||
3 | 1.33 | 4.05 | ||
4 | 0.31 | -2.57 | ||
5 | 0.31 | 0.20 | ||
6 | -4.70 | -3.00 | ||
… |
- 年齢で統制した点数と身長の偏相関係数
-
H I … 25 点数*身長 =CORREL(E2:E327,F2:F327) …
- 批評
- 上記結果を踏まえて、批評文を仕上げよ。
-
Aさんは疑似相関を真正の相関と見なしたところが間違っている。Aさんは身長と点数のみで相関係数を求めたが、Aさんは年齢と身長・点数の関係についての考察を行っていない。しかし年齢と身長・点数には非常に高い相関関係が見られた。そこで身長と点数の関係を年齢で統制して、身長と点数の偏相関係数を求めた。その結果、身長と点数の相関(0.01)には有意差が出ない。つまり身長と点数は年齢を媒介とした疑似相関であると言える。
このデータから読み取れる結論は「年齢が高い方が身長が高く、試験で高い点を取る傾向がある」と言うことである。
隠れた要因
この例における「年齢」が隠された変数であり、それを表に出すことで表層的な現象からは見えなかった「構造」を見出すことが出来る。
一般的には隠れた変数は様々な理論や経験によって論者自身が「発見」する必要がある(教育社会学におけるhidden curriculum)。
- 再生産理論
-
- 階級(社会階層)
- フェミニズム
-
- ジェンダー
- セクシュアリティ
- 差別論
-
- エスニシティ
- 時代論・世代論
-
- 教育制度・社会制度・社会状況
- 地域社会論
-
- 地域性
- 文化論
-
- 階層・時代・地域・ジェンダーetc
練習問題(p.177)
事例に対する解釈を簡潔に批評せよ(「解釈」とは異なる、他のあり得べき解釈を簡潔に延べよ)。
- 問1:練習問題「長い睡眠時間は体に毒?」
-
- 事例1
- 調査によると一日9時間以上眠る人の平均寿命は一日7時間半睡眠時間の人よりも短いことが分かった。
- 解釈
- 9時間以上寝ると寿命が短くなる(長く寝過ぎるのは健康に良くない)
- 問2:練習問題「IQが高いほど長生き!」
-
- 事例2
- 1932年6月1日に知能テストがスコットランドのアバディーン市に在住する11歳の児童2792人を対象に行われた。1997年、ローレンス・ウェリー(Lawrence J. Whalley)らは児童期のIQに従って生存率を分析した。その結果、IQの低い子どもより高い子どもの方が長生きだったことが判明した。
- 解釈
- 優れた人間は知力・体力ともに優れている
構造を発見する
社会学論文の目的は、様々な現象・データから社会構造(社会関係・社会意識など)を見出し、それを記述することである。
自分が論じたい対象を絞り、その範囲においてどのような構造が生起しているかについて先行研究などを参考にして仮説を立て、それをデータで裏付けていく。
もちろん仮説は自分が集めたデータの観察結果によって修正されていく。データ観察と仮説との対話的・螺旋的な修正作業により、より洗練された構造を見出す。その構造が論文における知見となる。
- 自分が集めたデータと自分が論じたい構造とのカバレッジの差に注意せよ
- 自分が集めたデータの時間的(時代性)・空間的(地域性)限界を説明した上で、それらを捨象して残る一般的な構造を記述せよ
- その構造はどこまで一般化可能か?
- その構造は(あなた個人の趣味ではなく)社会学的に価値があるか?