研究の問い(p.132-)
研究方法→そこから得られるエビデンス→論点→主張
研究テーマとそれをなすための研究方法が決まれば、今度はその研究方法で集められるデータ(エビデンス)から何をどこまで論じうるかを検証する。果たして自分が定めた論点は、自分が集めようとしているエビデンスで論証されうるだろうか?
データから主張を導き出すときには「解釈」が介在する。得られたデータに意味を持たせ、抽象度を上げ、一般的な主張に繋げていく。しかしその解釈に飛躍があっては説得力を欠く。
- 記述・推測的解釈…研究方法に内在する「解釈」(脱文脈的)
- 批評的解釈…「常識」・理論などに基づく「解釈」(文脈依存的)
この解釈の妥当性を検証する。そうして論理の飛躍を縮めつつ、論点(研究の問い)を具体化・詳細化していく。論証可能な適切な論点が定まれば、研究方法もより具体化・詳細化され、論文作成の方向性が定まる。
適切な研究の問い(p.133)
- 論点内の概念は明確に定義づけられるか
-
- 検証可能であるか(研究方法・データ収集手段との整合性をチェックする)
※検証方法に複数の研究方法・データ収集手段が含まれている場合、ボリューム的に並立可能か?難しいなら絞り込む。 - 具体性は適切か(抽象的すぎると検証不能・具体的すぎると一般性を欠く)
- 検証可能であるか(研究方法・データ収集手段との整合性をチェックする)
- データから導ける問か
-
一般的に論文全体の論点(問)をデータから直ちに導くことはできない。データから直接導出可能な問いに細分化する必要がある。
課題
論文で取り上げたい問題意識から「規定文」と「データ収集手段」を記述してみた。これを逆方向から再検討し、データ収集手段から得られうるデータを具体的に想定し、そこから「論点」を導き出し、「規定文」をより具体化せよ。
- データ収集手段からどのようなデータが得られるか、具体的に想定せよ。
- 想定された「データ」より論証される「論点」を析出せよ。
- 析出された「論点」より規定文を作成せよ(現状での規定文はあくまで仮説である)。
- 規定文を元にタイトル(仮)を考えよ。
例題
大学生は、学問のほかに部活動やサークルに所属し、そうでない人たちもさまざまな活動や遊びなどの行動範囲が増えていく時期である。そういった課外活動などの連絡網には、PCやガラケーよりも使い勝手のよいスマホが必要不可欠になってくる。なぜなら急な予定の変更や、事前の連絡などを大勢に一度にまとめて知らせることができ、さらに受け手もそれに対応しやすくなるからだ。大人数を一度に動かせてしまうものなので、これほど便利なものはないだろう。
- 規定文
- スマートフォン普及により大学生活は変化した←大学生活の「変化」は抽象的すぎて曖昧である
- データ収集手段
-
- 大学生活に関するアンケート調査(通時的データ)-量的調査←論点に関わる形でもっと具体化・詳細化する
- スマートフォン利用に関する聞き取り調査-質的調査←論点に関わる形でもっと具体化・詳細化する
※データ収集はどちらかを選択する(あまり手を広げすぎない)
作業例
- データ収集手段-インタビュー(質的調査)
-
友人関係を広げていく際にスマートフォンがどのように利用されているかを聞き取り
- 得られうるデータ:SNSが学内の人間関係構築・深化に果たしている具体的事例についての語り
- 論点:データから解が得られうる問いを導き出す
- 得られうるデータ:SNSが学外の人間関係拡張に果たしている具体的事例についての語り
- 論点:データから解が得られうる問いを導き出す
- 規定文(仮説)
- 論点を集約した内容を簡潔に記述する
- タイトル(仮)
- 体言止めで簡潔に記述する
解答例
- タイトル(テーマ)
- 「スマートフォン利用による大学生の対人ネットワークの構築」
- 規定文(仮説)
- 大学生が交友関係を広げるのにスマートフォンは寄与している
- 論証手段:論点とデータ
-
- 論点:学内での人間関係構築においてスマートフォンがどう利用されているか
- 得られうるデータ:SNSが学内の人間関係構築・深化に果たしている具体的事例についての語り
- 論点:学外への人間関係拡張にスマートフォンは役立っているか
- 得られうるデータ:SNSが学外の人間関係拡張に果たしている具体的事例についての語り
問1
スマートフォンの利用によって大学生のつながりを様々な方向へと広げている。それはやはり、Twitter、LINE、Facebook、などSNSの出現によるものであると思う。これによって、趣味の合う友達ができたり、また、SNSで連絡を取り、多くの友達と関係を続けることができたりする。このように良いこともあるのだが、大学生のネットビジネスの勧誘でだまされたり、SNSへの無責任な投稿によって事件になったりする。私は、良い影響も悪い影響もあると考え、よりよい判断が常にスマートフォンには必要であると考える。
- 規定文
- スマートフォンが人間関係の広がりに影響を与えている←エビデンスから得られる知見はもう少し具体的に絞り込めそうだ
- データ収集手段
-
- スマートフォンでSNSをどれくらい使用しているかのアンケート調査-量的調査←SNSを通じた人間関係の変化についても質問する
- SNSを通じて出会った人とどのように交流し、どう思ったかの聞き取り-質的調査
※アンケート調査とインタビュー調査を両方やるのは負荷が高いのでどちらかに絞ってみる
解答例
- タイトル
- 「SNSを通じた大学生における人間関係の変容」
- 規定文(仮説)
- SNSを積極的に利用している学生はそれを通じて幅広い人間関係を構築している
- データ収集手段-アンケート調査(量的調査)
-
SNSを積極的に利用している学生と利用していない学生とで人間関係の広がりに違いはあるか
- 論点(質問項目)例
-
- SNSの利用度(利用時間・熱心さなど)
- 大学内での人間関係(接触回数・時間・親密さなど)
- 大学外での人間関係(接触回数・時間・親密さなど)
問2
スマートフォンは大学生にコミュニケーション能力の低下をさせてしまう影響がある。主体的にみて、大半の大学生がスマートフォンを所持しており、講義や予定を立てる際の連絡手段はスマートフォンのLINEというアプリがよく使われており、複数での連絡手段においても最も便利なものである。だがそれが原因となり、言葉を交わすことのない文字だけのコミュニケーションのやりとりが習慣化されている。
- 規定文
- スマホの普及に伴い、コミュニケーションは変化した←抽象的・エヴィデンス1を用いて定義し直す
- データ収集手段←「文字だけ」ではないコミュニケーションの減少を論証する必要がある
-
- コミュニケーションの低下を直接話す機会の減少と定義する-理論研究
- LINEによる連絡頻度の増減-量的調査←どのぐらいの時間感覚なら意味のあるデータを取れるか?
- 大学生のLINEに関する聞き取り調査-質的調査←対面コミュニケーションの現状についても聞き取る
作業例
- データ収集手段
-
- LINEを利用する人とあまり利用しない人に対してコミュニケーションの取り方についての聞き取り調査-質的調査
- 論点
- スマートフォン(LINE)が普及することによって対面コミュニケーションの機会は減少しているか
解答例
- タイトル
- 「スマートフォン普及に伴う対面コミュニケーションの変化」
- 規定文(仮説)
- 日常的な連絡をスマートフォンとりわけLINEの利用に頼ることで大学生は対面してコミュニケーションを取る機会を減らしている
- データ収集手段-インタビュー(質的調査)
-
- 大学生の中でLINEをよく利用する層とあまり利用しない層各々にコミュニケーションのあり方を聞き取る
- スマートフォン普及前に大学を卒業した年長者に当時のコミュニケーションのあり方を聞き取る
問3
スマートフォンの利用は、大学生に様々な影響を与えている。その多様な機能により、スマートフォンに依存している大学生も多い。スマートフォンの依存により、歩きスマホや長時間利用により、視力の低下や睡眠不足などのさまざまな悪影響を与えている。
- 規定文
- スマートフォン利用前後で視力は低下し、睡眠不足が進んだ←「社会学」分野で研究するのであれば、健康に特化しない方が良い
- データ収集手段
-
- 視力低下や睡眠不足に関するアンケート調査(通時的データ)-量的調査←質問内容を広げる
- スマートフォン利用に関する聞き取り調査-質的調査←もう少し具体的に
※アンケート調査とインタビュー調査を両方やるのは負荷が高いのでどちらかに絞ってみる
作業例
- データ収集手段
-
- スマートフォンを長時間利用する人とそれほど利用しない人に対して学生生活の状況・満足度についての聞き取り調査-質的調査
- 論点
- スマートフォンを長時間利用する学生としない学生では大学生活にどのような違いがあるか(どちらが満足度が高いか)
解答例
- タイトル
- 「スマートフォンは大学生活を豊かにするか」
- 規定文(仮説)
- スマートフォンを長時間利用し続ける学生はそうではない学生と比べて不本意な学生生活を送る傾向が見られる
- データ収集手段-インタビュー(質的調査)
-
- スマートフォン長時間利用学生に日常生活の時間の使い方、友人とのコミュニケーションのあり方、健康状態などを聞き取る
- スマートフォン利用時間が比較的少ない学生に日常生活の時間の使い方、友人とのコミュニケーションのあり方、健康状態などを聞き取る
問4
スマートフォンが大学生に与える影響はスマートフォンでのSNSの利用が学力低下につながりかねないということである。SNSはいつだれとでも会話を楽しめ、暇つぶしとしても有効である。そのことにより、大学生が講義中に「暇」だと考えてしまえば、すぐに使用してしまう。
- 規定文
- SNS利用により大学講義における大学生の意識は変化した←「意識」の「変化」では抽象的すぎる
- データ収集手段
-
- 大学生に対する単位取得率アンケート-量的調査
- 大学生に対するSNS利用時間アンケート-量的調査
- 大学の講義での過ごし方アンケート-量的調査
- 大学教授に対する学生への意見アンケート-量的調査←具体化できる?大學教員を「量」で処理できるだけの人数を集められる?
- 大学教授に対する講義に関する聞き取り調査-質的調査
作業例
- データ収集手段
-
- 大学生に対する単位取得率アンケート-量的調査
- 大学生に対するSNS利用時間アンケート-量的調査
- 大学の講義での過ごし方アンケート-量的調査
大学教授に対する学生への意見アンケート-量的調査- 大学教員に対して学生の講義中のスマートフォン利用に関しての聞き取り調査-質的調査
- 論点
- スマートフォンの普及(とりわけSNSへの依存的利用)が大学生の学力を低下させたか
解答例
- タイトル
- 「スマートフォンの普及がもたらす大学生の学力の影響」
- 規定文(仮説)
- スマートフォンを長時間利用し続ける学生はそうではない学生と比べて学力達成が低い傾向が見られる
- データ収集手段-教員に対するインタビュー(質的調査)と学生に対するアンケート(量的調査)
-
- 大学教員に対して学生の講義中のスマートフォン利用と授業内容習得との関連に関しての聞き取り調査-質的調査
- 大学生に対する単位取得率アンケート-量的調査
- 大学生に対するSNS利用時間アンケート-量的調査
- 大学の講義での過ごし方アンケート-量的調査